クリプトン(読み)くりぷとん(英語表記)krypton

翻訳|krypton

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クリプトン」の意味・わかりやすい解説

クリプトン
くりぷとん
krypton

希ガス元素(貴ガス元素)の一つ。原子番号36、元素記号Kr。1898年イギリスのラムゼーらによって液体空気のアルゴン留分(分別蒸留で得られた各成分)から発見された。命名ギリシア語の「隠れたもの」chryptosに由来する。大気中のほか、天然ガス、温泉、火山ガスなどにも極微量に存在する。天然には6種の安定同位体が存在するが、ウラン233、235、238およびトリウム232の核分裂によって多種類の放射性同位体も生成し、核爆発実験・原子炉事故や原子炉操業・燃料棒再処理などによって大気圏に拡散されたものもある。それらの中でクリプトン85の半減期は10.756年と長く、その大気中での濃度は、放射性核汚染の指標の一つになっている。

 工業的には液体酸素留分から分留と吸着法を利用して採集される。蛍光灯の効率を向上させるための封入ガス、また白熱電球内のタングステン蒸発を抑制して寿命を長くするための封入ガスなどに使われる。

 化学的には不活性で、水、キノールフェノールなどをホストとする包接化合物の生成のみが知られていたが、キセノンの化合物に続いて、クリプトンのフッ化物KrF2, KrF4なども合成できるようになった。

[岩本振武]



クリプトン(データノート)
くりぷとんでーたのーと

クリプトン
 元素記号  Kr
 原子番号  36
 原子量   83.798
 融点    -156.6℃
 沸点    -153.35℃
 密度    3.733g/dm3(0℃,1気圧)
 元素存在度 宇宙 64.4(第29位)
          (Si106個当りの原子数)
       海水 0.2μg/dm3

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クリプトン」の意味・わかりやすい解説

クリプトン
krypton

元素記号 Kr ,原子番号 36,原子量 83.80。天然には6つの安定同位体が存在する。周期表 18族,希ガスの1つ。 1898年イギリスの化学者 W.ラムゼーと M.トラバースにより液体空気中から発見された。大気中の存在量 1×10-4 % (体積) 。液体空気の分留によって製造する。単体は無色,無臭,無味の単原子気体。融点-156.6℃,沸点-152.9℃。各種の包接化合物が知られているほか,1963年以降,フッ化物が合成されている。しかし一般には化学的に不活性である。白熱電球に封入されることがあるほか,放射性クリプトンの半減期は約 10年のため,半永久的トレーサーとして,化学分析,物質の構造研究に広く利用されるようになった。

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