改訂新版 世界大百科事典 「ドマニシ」の意味・わかりやすい解説
ドマニシ
Dmanisi
グルジア(ジョルジア)共和国南部,トビリシの南西85km,山岳地帯にある更新世人類遺跡。二つの急峻な谷が合流する高さ80mの断崖の上に作られた中世遺跡が調査された際,1991年に更新世の動物化石やオルドバイ型の石器とともに,初期原人の下顎骨化石(D 211)が発見された。その後,保存良好な初期原人の化石が数多く発見され,注目を集めている。動物化石はゾウ,キリン,ダチョウ,剣歯ネコ,オオカミ,シカなど,アジアとアフリカの動物を含んでいる。化石包含層の直下の玄武岩層の年代がアルゴン・アルゴン法で195万~178万年前と推定され,古地磁気法の結果も矛盾しないので,化石の年代は約176万年前と推定された。ここは,当時は平原であり,溶岩流にせき止められた湖の湖底堆積物に動物や人類の骨が大量に含まれることになった。その後,付近が隆起し,谷が形成され,その合流地点に当時の堆積層が取り残された。
発見された人骨は,頭骨4点(D 2280,2282,2700,3444)および下顎骨(D 211,2600,2735,3900)と若干の四肢骨である。他にも未報告の化石がある。頭骨(D 2700)と下顎骨(D 2735)は同一個体と思われるが,他は不明。頭骨と下顎骨は大きさの変異が著しく,性差による違いか,あるいは2種の人類が混ざっているのか議論されている。脳頭蓋は低く,頭蓋腔容積は600~750mlであり,ホモ・ハビリスと同じかやや大きく,ホモ・エルガスターやホモ・エレクトスより小さい。歯は,一部を除いて,アジアのホモ・エレクトスよりも大きく,原始的状況を保っている。頭骨(D 3444)は歯が全くない老人のもので,仲間によって介護されていた可能性がある。2003年以降には四肢骨が発見され,推定された身長146~166cmは,頭の大きさから予測された身長より大きいことがわかった。遺跡の調査研究を指揮するのは,グルジア国立博物館のロルドキパニゼD.Lordkipanidzeで,2004年度のロレックス賞を受賞している。
→ホモ・エレクトス →ホモ・ジョルジクス
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報