正立位をとったとき,すなわち,頭部を耳眼面水平に保持し,両足をそろえ,背すじを自然にのばして立ったときの,床面からベルテックス(頭頂点ともいう。耳眼面を水平に保持したときの,頭部正中線上における最高点)までの垂直距離。スタジオメータで測った値は,垂直に立った柱に背すじを押し当てて測るため,アントロポメータで測った値よりも1cm程度大きいことが多い。2歳までの幼児では,臥位で計測する(臥位身長recumbent length)。臥位身長を測るときは,固い水平な板の上に仰臥し,足首を直角に曲げて足底を水平板に対して垂直に立った板に当て,耳眼面水平を保持し(耳眼面を,足底を当てた垂直板に平行に保持する),足底を当てた垂直板からベルテックスまでの距離を測る。脊柱の湾曲が変わり,椎間板が圧迫されないため,臥位身長は立位で測る身長よりも1~2cm大きい。立位での身長は,朝起床して以後,椎間板の厚さの減少や脊柱湾曲の増大により,1cmから数cm減少する。このため,経時的な変化を調べるときは測る時刻を一定にする,平均身長で1~2cmの差を調べるときは,計測の時間帯を考慮する,などの注意が必要である。
身長は一般型の成長パターンをとり,明瞭な思春期のスパートを示す。身長に明瞭なスパートがあるのは,ヒト独自の特徴である。身長は長骨の骨端円盤で軟骨が分裂,増大し,これが骨に置換されることにより成長し,骨端円盤での成長はホルモンにより制御される。視床下部から分泌される成長ホルモン放出ホルモンが,脳下垂体前葉からの成長ホルモン分泌を促す。成長ホルモンは標的器官をもたず,軟骨を分裂させる作用をもつと同時に,主に肝臓でのインシュリン様成長因子分泌を促す。インシュリン様成長因子は細胞の成長を促す。インシュリン様成長因子の濃度が高くなると負のフィードバックが働いて,成長ホルモンの分泌が,さらには成長ホルモン放出ホルモンの分泌が抑制される。栄養不良の場合,身体の維持が成長に優先されるため,血液中の成長ホルモンの濃度が高くてもインシュリン様成長因子の濃度は上がらず,成長速度は低くなる。成人男性の平均身長が150cm未満の集団を,ピグミーと呼ぶ。低身長の集団では,栄養不良が低身長の主な原因である場合が多い。アフリカのエフェEfe・ピグミーの低身長は遺伝的なもので,組織に成長ホルモンのレセプタが少ないためにインシュリン様成長因子の濃度が低いか,組織がインシュリン様成長因子に反応しないためだという。成人では男性の方が女性よりも10cm程度平均身長が高い。この差の多くは男性の方が思春期前の成長期間が2年ほど長いことと,スパート期間中の成長量が大きいことによる。性染色体異常の人の身長の研究から,Y染色体に身長を大きくする効果があるが,組織に男性ホルモンの感受性がないと,この効果は十分には現れないことがわかっている。
ほどんどの国では身長に社会階層による差や,住んでいる都市の大きさ,兄弟の数による差がある。移住により身長が高くなったという報告も多い。いずれも,時代変化と同様,栄養状態の差の原因となる衛生状態や生活水準の差が,身長差の主要な直接的原因と考えられる。2008年度の文部科学省の調査では,20~24歳の日本人の平均身長(スタジオメータで計測)は男性で172.0cm,女性で158.7cmである。最も高身長といわれているオランダ人の平均身長(2004年に計測,20~30歳)は,男性で184.8cm,女性で168.7cmである。日本人男性の平均値は,オランダ人男性の6パーセンタイルに,日本人女性の平均はオランダ人女性の6.5パーセンタイルに相当する。アフリカのエフェ・ピグミーの平均身長(1980年代にアントロポメータで計測)は,男性143cm,女性137cmである。
→人体計測法 →成長
執筆者:河内 まき子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…とはいえ2人種の接触地帯で混血が行われ,混血によって導入された遺伝子は長期的には双方の集団に拡散してゆくので,純粋な人種は存在しないし,かつて存在したとも考えられない。また,ある人種の特徴は,身長や頭型を数値的に表現する限りにおいて,同一個体にすべての特徴が現れることはほとんどありえない。ある個体を見て,どの人種ではないと否定することはできても,どの人種に属すると言いあてることは,多くの場合きわめて困難である。…
※「身長」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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