ホモ・ハビリス(読み)ほもはびりす(英語表記)Homo habilis

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホモ・ハビリス」の意味・わかりやすい解説

ホモ・ハビリス
ほもはびりす
Homo habilis

化石人類の一種。ケニア生まれのイギリスの人類学者L・リーキーと妻の先史学者M・リーキーはタンザニアのオルドワイ渓谷で、1959年ジンジャントロプス・ボイセイを発見したが、ボイセイを、伴出した原始的な礫(れき)石器の製作者と考えた。年代も180万年前と推定されたため、このニュースは世界の注目の的となった。ところがリーキーは、1964年に従来の説を訂正し、新たな発見を公表した。ボイセイ発見の翌年、発見地のそばのやや古い層から、脳頭蓋(とうがい)がそれより丸みを帯びて膨らみ、もっときゃしゃな顎骨(がくこつ)が発見されたというのであり、彼はこれにホモ・ハビリスと命名するとともに、前述の礫石器の製作者兼使用者はハビリスであり、ボイセイはハビリスによって滅ぼされたのであると解釈を変えた。ホモ・ハビリスとは「能力あるヒト」という意である。当初は資料が少ないため、多くの論争をよんだが、その後、同類人骨がオルドワイ渓谷、ケニアのトゥルカナ湖東岸など東アフリカの大地溝帯各地から多数発見されており、南アフリカのスタークフォンテイン遺跡などから出土した化石のなかにも同類化石があると指摘されている。なお、ケニアの東トゥルカナからは脳頭蓋が大きく、顎面や歯も頑丈な標本が出たため、ハビリスには大小2種類があるとされ、大型のものはホモ・ルドルフェンシスとよばれる。脳容量は600ないし700ミリリットルであり、猿人と原人の間をつなぐ。頭骨は薄く、進歩的である。下肢骨直立二足歩行に適し、手の骨から力強い把握能力が示唆される。このような点からリーキーは、ハビリスを石器製作者と考えたのであり、ハビリスを現生人類祖先とみなし、ホモ属に入れ、その歴史の古さを強調した。

[香原志勢]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホモ・ハビリス」の意味・わかりやすい解説

ホモ・ハビリス
Homo habilis

1960年に東部アフリカ,タンザニア北部のオルドバイ峡谷の湖床層の第2層下部から発見された更新世のヒト科の骨格遺残。頭頂骨,下顎骨と手の骨が発見され,既知アウストラロピテクス類よりもややホモ・エレクトゥス(→原人類)に近い特徴を示すところから,1964年人類学者ルイス・S.B.リーキーらによりホモ・ハビリスと命名された。オルドワン型の礫器を残したのはこの人類であったと考えられている。発表当初は,アウストラロピテクス類の一地方型にすぎないという見方もあったが,その後ケニアのトゥルカナ湖東岸地域でも類似の化石が多数発見され,いまでは猿人から原人への移行段階の人類とみる学者はない。

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