日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドーテル」の意味・わかりやすい解説
ドーテル
どーてる
André Dhôtel
(1900―1991)
フランスの小説家。アルデンヌ地方の出身で、同郷の先達ランボーの影響が強い。故郷の自然を背景とした、優れた物語性と幻想的な詩情にあふれる20冊余りの小説を発表。『遙(はる)かなる旅路』Le pays où l'on n'arrive jamaisによって1955年度のフェミナ賞を受賞。客観的な現実描写のただなかに人間の夢や憧憬(しょうけい)を不意に現出させる作風は、この作家独特のもの。評論『ランボーと近代の反抗』Rimbaud et la révolte moderne(1952)などもある。人間の生活は、終局的には永遠の探求、終わることのない彷徨(ほうこう)、日常的な気まぐれと切っても切れない関係にある、というのがドーテルの考えである。これもアルデンヌ地方の自然とランボーとが、彼のなかに育(はぐく)んだ浪漫(ろうまん)主義であろうか。
[稲田三吉]
『新庄嘉章・稲田三吉訳『遙かなる旅路』(1958・三笠書房)』▽『弓削三男訳『見えない村』(『現代フランス幻想小説』所収・1972・白水社)』▽『榊原晃三訳『バラをさかせた手』(1977・文研出版)』▽『天沢退二郎訳『荒野の太陽』(1988・福音館書店)』