ニコルオレーム(英語表記)Nicole Oresme

改訂新版 世界大百科事典 「ニコルオレーム」の意味・わかりやすい解説

ニコル・オレーム
Nicole Oresme
生没年:1325ころ-82

フランスのスコラ哲学者。ノルマンディー地方のカン近郊に生まれ,1348年にパリ大学の学芸学部を出た後,ナバール学寮でさらに研鑽を重ね,56年にはその学寮長となった。その後60年代末から70年代末まで,いくつかのアリストテレスの著作をフランス語に翻訳し,それに緻密で批判的な注釈を付け加えることに力を注いだ。そして晩年にはリジューの司教となった。彼の学問的業績は多岐にわたるが,なかでもとくに注目に値するのは,《天体・地体論》における地球の日周運動に関する詳細な検討と,《性質と運動の図形化について》における形相の強化と弱化の問題に関する理論的展開である。前者について彼はビュリダンの成果をさらに一段と押し進め,地球の日周運動論にたいする従来の自然学的,天文学的,神学的反論がすべて論駁されうることを説得的に示すとともに,後者についてはグラフ表示の方法を案出して,直観的に理解しやすい仕方でいわゆる〈マートン規則〉(等加速度運動における通過距離は,初速度と終速度の平均速度をもつ等速度運動が同じ時間に通過する距離に等しい)を証明した。彼の後世への影響については,不明な点が数多く残されているものの,14世紀のスコラ哲学者のなかでもっとも卓越した人物一人であることが,しだいに明らかにされつつある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のニコルオレームの言及

【中世科学】より

…それは1277年のパリの司教タンピエÉtienne Tempierの異端断罪に端を発し,アリストテレスの学説が批判されると,イギリスではブラドワディーンを中心にダンブルトンのジョンJohn of DumbletonやスワインズヘッドRichard Swinesheadらが,アリストテレス運動論の数学的難点を指摘し,この克服のために新たな数学的定式化を試み,そのなかには,ガリレイの〈落体の法則〉を先取りするものも現れた。大陸ではビュリダンを中心に,ニコル・オレーム,ザクセンのアルベルト,インヘンのマルシリウスMarsiliusらが,アリストテレス運動論の自然学的難点に注目し,あらためて〈インペトゥス理論〉を発展させ,〈運動量〉の概念,〈慣性〉の法則,〈等加速運動〉の幾何学的定式化などに向かった。こうした中世末期の運動論は,フランスの科学史家デュエムらにより〈近代科学〉のはじまりであると主張され,学界の注目を集めた。…

※「ニコルオレーム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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