翻訳|radio
広く無線全般を意味することばだが、一般的には電波による音声放送とその受信機をさすことが多い。ラジオ放送には中波、短波、超短波帯の電波が、それぞれの特性・特徴を生かして用いられている。日本では中波が国内向け標準放送として、短波がおもに海外向け国際放送として、そして超短波が音質の優れたFM放送として使われている。
[木村 敏]
1888年H・R・ヘルツが電磁波(電波)の存在を実証し、1895年マルコーニが初の無線電信実験に成功して、電波による通信の可能性が開けた。1900年にアメリカのR・A・フェッセンデンが高周波発電機式無線電話を発明、1906年のクリスマス・イブにマサチューセッツ州ブラントロックの実験局からこの無線電話(長波)によって音楽と挨拶(あいさつ)を電波にのせた。これがおそらく最初のラジオ放送だろうと『放送五十年史』(日本放送協会編)は述べている。また、同1906年には、アメリカのド・フォレストが三極真空管を発明し、ラジオ放送に欠かせない連続電波の発生と変調装置発展の基礎を開いた。1908年、ド・フォレストはフランスに渡り、エッフェル塔からレコード音楽を放送して注目を浴び、また1910年にはニューヨーク・メトロポリタン歌劇場からオペラの中継放送を行っている。
1920年アメリカのウェスティングハウス社がピッツバーグにKDKA局を開局、これが世界最初の固定のラジオ放送局となった。KDKA局が大統領選挙戦の開票結果を中継して大きな反響をよんだことから、その後アメリカのラジオ放送局は急速に増加し、2年後の1922年末には全米で569局を数えるまでになっている。
ヨーロッパでは1920年にイギリス、オランダ、ドイツが、また1921年にフランスが実験放送を始め、1922年からは、フランス国営放送、イギリス放送会社(現在のBBCの前身)、ソ連のモスクワ放送局(ソ連崩壊後は「ロシアの声」となる)などが本放送を開始している。
日本では1921年(大正10)に民間人によって初めてラジオ電波が発射された。1923年には逓信(ていしん)省令「放送用私設無線電話規則」が制定され、また新聞社などによるラジオの公開実験が各地で開かれて、一般のラジオへの関心が高まってきた。1925年3月22日、社団法人東京放送局が芝浦の東京高等工芸学校から仮放送を220ワットで開始した。本放送は、同年7月から東京、芝の愛宕(あたご)山に新装なった局舎から1キロワットで始まっている。大阪放送局、名古屋放送局も同年相次いで開局、翌1926年この3局は社団法人日本放送協会(現在は特殊法人)に一本化された。
1950年(昭和25)電波法、放送法、電波監理委員会設置法が成立し、それまで社団法人日本放送協会(NHK)でのみ行ってきた放送が一般にも開放され、広告料収入によって経営される民間放送の設立が可能になった。翌1951年9月には名古屋の中部日本放送と大阪の新日本放送(現、毎日放送)が開局、以後各地に次々と民間放送が開局した。
短波放送はその電波が遠距離まで届くということから、日本では1935年以来海外向け放送に利用されてきた。当初は北アメリカ、ハワイ向けに日本語と英語による1時間の放送であったが、2012年度(平成24)時点では、日本の八俣(やまた)送信所(茨城県)および11か所(中波放送とFM放送を含めた場合は21か所)の海外中継送信所から、全世界に向けて18の言語により、1日当り延べ55時間55分の放送が行われている。一方、1954年から、民間放送の日本短波放送(2003年日経ラジオ社に社名変更)が、千葉・長柄(ながら)と北海道・根室(ねむろ)の2か所の送信所から、日本全国を対象に、ニュース、株式などのサービスを開始している。
超短波FM放送は、1929年アメリカのE・H・アームストロングの周波数変調(FM)方式の発明と1936年の実用化成功でその基礎が開かれた。1938年世界最初のFM実験放送局がアメリカに誕生、ステレオ放送も1961年に始まっている。
第二次世界大戦後、中波の周波数割当てを削減された西ドイツは、FM放送による全国カバーを計画し、1949年に放送を開始した。
日本では1957年12月NHK東京に初めての実験局が開設され、翌1958年にはFM東海にも実験局開設が認められた。その後ステレオ放送の信号多重方式について検討が進められ、1963年12月、NHK東京、大阪、名古屋など既設の9局がステレオ実験放送を開始した(モノホニック放送については実用化試験となる)。日本のFM放送は、実用化試験あるいは実験放送の期間が長く、1969年3月になってようやく本放送開始となった。このときすでに、NHKは全国に170のFM放送局を設置しており、これが一挙に本放送となったのである。続いて東京、大阪、名古屋、福岡に民放FM局が誕生した。
一方、FM放送の電波に重畳できる信号の検討についても1975年から審議され、1994年に民間のエフエム東京が、音声とともに文字情報を送るFM文字多重放送(サービス名「見えるラジオ」)の放送を開始。その後他局も加わり、局名など音声と関連した情報およびニュースなど、音声と独立した情報を放送した。しかし、ラジオ受聴者の減少とインターネットの普及によって文字多重放送の需要は減少。見えるラジオのサービスは、2014年3月に終了となった。
[木村 敏]
526.5~1606.5キロヘルツまでの中波帯の電波を使用する放送で、日本では531~1602キロヘルツの周波数を9キロヘルツ間隔で使うように割り当てられている。放送の方式としては、搬送波成分と搬送波を音声信号で振幅変調(AM)することによって生じる上・下の側帯波を同時に伝送する両側波帯振幅変調方式がとられている。
中波放送は、その波長の長いことから、電波がおもに地表に沿って伝搬し、また地形などの影響を受けにくいので、1局当りのサービスエリアが広くとれること、建造物による遮蔽(しゃへい)や反射による影響がなく、自動車などの移動体でも安定した受信ができること、さらには受信機が比較的簡単で信頼度が高く、安価につくれることなどの利点がある。その反面、音声帯域幅が7.5キロヘルツに制限されており、FM放送の15キロヘルツに比べて音質的に見劣りがすること、使用周波数が低いので空電などの自然雑音や人工雑音の混入が多く、しかもその改善がむずかしいこと、夜間になると中波帯を反射する電離層が発生するため、遠方の放送局の電波が到来して混信するなど、いくつかの問題点がある。
FM放送の発展に伴い、中波放送の音質改善やステレオ放送の問題がクローズアップされ、アメリカでは高域強調やステレオ放送が実施された。日本でも高域強調の実用化に続き、ステレオ放送についてもアメリカと同じ方式であるC-QUAM方式(compatible quadrature amplitude modulation system)を日本の標準方式とし、1992年(平成4)、東京と大阪の民放5局で開始された。その後2000年時点では民放16局で実施されていたが、2000年代後半にはモノラル放送への切替えが相次ぎ、ステレオ放送を実施するのは一部の局のみとなった。
[木村 敏]
短波帯電波は電離層(E層、F層)で反射され、数千キロメートルの遠方まで届くことから、おもに国際放送に使われるほか、国土が広く放送網の完備していない国などで国内放送に使われている。使用周波数は3、6、7、9、11、15、17、21、25メガヘルツ帯。電離層の高さや密度は、太陽の影響を受けて、季節や1日の時間帯によっても変化する。そのため受信地域に電波が効率よく届くよう、放送時間、放送周波数を選択するほか、同一地区へ向けての放送も時間帯によって周波数を切り替えたり、複数の電波を利用したりする。季節によって周波数を変更するのはいうまでもない。変調方式は中波放送と同じ両側波帯振幅変調、周波数間隔は5キロヘルツである。現在、短波放送は一つの周波数に何局もがひしめく状態にある。互いに良好な受信を求めて大電力化が進められ、これがまた混信を増大するという悪循環をもたらしている。そこでいま、周波数の有効利用を図ろうと、上・下いずれかの側波帯のみを伝送する単側波帯放送方式の導入が国際的に検討されている。
日本の海外放送「ラジオ日本」は、NHKが番組を制作し、KDDIの送信設備を使って放送するほか、カナダやガボンなどの放送施設を借りて中継放送を行っている。短波の国内放送を実施している日経ラジオ社は、東北から南西にかけて細長い国土をもつ日本を1局でカバーしようと、比較的周波数の低い3、6、9メガヘルツ帯の電波を使って放送している。
短波放送は複雑な電離層からの反射電波を利用するので、受信点には伝搬経路の異なったいくつかの電波が到来する。これが互いに干渉しあい、放送の音の大きさや音質に変化を生じる。これがフェージングとよばれる現象である。フェージングは短波に限ったものではないが、短波においてもっとも顕著に現れる。
[木村 敏]
VHF帯の電波を使用する音声放送で、その変調方式が周波数変調(FM)であることから、一般にFM放送とよばれている。日本のFM放送に割り当てられている周波数は、76~90メガヘルツまでで、1局の周波数幅は0.2メガヘルツである。FM放送には、外来雑音に強く、ダイナミックレンジ(音の大きさの変化差)が大きく、伝送周波数帯域が広くとれるので、よい音質のハイファイ放送、ステレオ放送ができるという特徴がある。しかし、VHFの電波は直進性が強いのでサービスエリアが広くとれず、全国放送のためには多くの放送所を必要とするとか、山やビルによって電波が反射されるので、指向性アンテナを用いて直接波だけを受信するなどの注意を払わないと、音にひずみが生じるなどの問題もある。
現在設置されている日本のFM放送局は、すべてステレオ放送を実施している。その方式は、モノホニック放送との両立性を考慮した「搬送波抑圧AM-FM方式」(パイロットトーン方式)である。これは、主チャンネルにモノホニック信号となる左の音と右の音の和を、副チャンネルにステレオ再生用の信号として左と右の音の差を伝送するもので、副チャンネルは38キロヘルツの副搬送波を振幅変調(AM)して主チャンネルに多重化し、また副搬送波を抑圧するかわりに19キロヘルツのパイロット信号を付加している。最後にこれらの多重信号により主搬送波を周波数変調(FM)している。
一方、FM放送の電波に別の信号を重畳できるFM多重放送については、1975年(昭和50)から固定受信方式の検討が始められたが、移動体向けに道路交通情報などのデータを付加して放送する方式の開発も進められた。最終的に、文字、図形、付加情報、道路交通情報などの高い伝送容量を伝送可能なDARC(data radio channel)方式が、1995年(平成7)にITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)で勧告された。日本では、1994年にFM文字多重放送が開始され、番組に関連する曲名やアーティスト名、ニュース、天気などが提供された(2014年3月終了)。また、1996年には移動体向けに交通情報を提供するVICS(ビックス)(道路交通情報通信システム)のサービスが開始された。
[木村 敏]
ラジオ放送局の設備を大別すると、スタジオやマイクロホンといった番組制作設備、番組の送出に必要な運行設備、番組を電波にのせる送信設備となる。
[木村 敏]
音、すなわち空気の振動を電気信号に変える装置である。現在、磁界の中に置いたコイルやアルミ製薄膜の振動によって生じる電圧を取り出すもの、振動板とこれに接近して配置した固定電極間の静電容量の変化を取り出すものがおもに用いられている。性能、形はさまざまであり、用途に応じて使い分けられている。
[木村 敏]
ラジオ放送局には、音楽、ドラマ、ディスク・ジョッキーなど、それぞれの用途に応じた大きさと音響特性をもつスタジオがいくつか設備されている。スタジオの中は、外部の騒音や振動から完全に遮断される必要があり、このため壁をコンクリートの二重構造としたり、防振ゴムによってスタジオそのものを建物本体から隔離させる浮き構造にしたりしている。また、スタジオ入口の防音扉や換気口での空気の流れの音にも細かな神経が払われている。
スタジオの音響効果に影響を与える特性として、残響と反射がある。残響は、その時間が長いと音の分離が不明瞭(ふめいりょう)になり、短すぎると豊かさがなくなる。最適残響時間は、ことばの明瞭度が問題になるスピーチ専用スタジオで0.25秒程度、ドラマや小編成の音楽・合唱の一般スタジオで0.35~0.6秒、音の響きや各楽器音のバランスのよさが求められる音楽専用スタジオで1秒以上とされている。残響は部屋の形にも影響される。部屋の三辺の寸法比によってはある周波数の響きが長く残る。これを防ぐには、スタジオの間口・奥行・高さの比率を (3)n になるようにするのがよいとされる。また、最適残響時間を得るためスタジオの壁には各種吸音材が使われている。反射による鳴き竜現象やエコーを防ぐには床と天井、向かい合う壁が平行になるのを避ければよい。音楽番組では各楽器ごとにマイクロホンを立て、ミキシングによって音響効果を高める手法がとられている。このため他の楽器音のかぶりをなくすため、複数の遮音ブースをもつスタジオも導入されている。
スタジオ内の設備としては、時計、マイクロホンコンセント、副調整室からの指示を伝えるトークバックなどがある。なおアナウンサー用のマイクロホンには、手元で操作できる音量調節器がついている。
[木村 敏]
スタジオ内に設置した数本から十数本のマイクロホンの音量を適切に調整し、また音楽や効果音の録音テープ、レコードなどを再生してスタジオ音と合成あるいは切り替えて一つの番組をつくりあげていくための部屋である。スタジオに隣接して置かれる。したがって、副調整室には、音声調整卓を中心に、モニター用スピーカー、テープ録音再生機、レコードプレーヤー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、DAT(デジタルオーディオテープレコーダー)などが設備されている。調整卓のもつ機能はスタジオの規模によってさまざまだが、音の切り替え、混合ばかりでなく音色の変換、残響付加なども行え、番組効果を高めるのに役だっている。音楽番組などではマルチトラック録音機による収録が盛んになり、このテープ素材から放送番組をつくるための調整室も設備されるようになった。なお、DAW(digital audio workstation:デジタルオーディオ・ワークステーション)を活用した制作手法が主流になりつつある。DAWとは、編集、同期、再生、ミキシングなどの処理を、デジタル信号のままで行うデスクトップ型のテープレスの音声レコーディングシステムである。DAWは画面上への音声信号の波形の表示や高速なランダムアクセスなどの優れた特徴があるので、音声の後処理、編集作業(これはポスプロ、MA作業とよばれている)などの分野において、より高精度に、より能率的に作業を進めることが可能になった。現在のDAWは、パーソナルコンピュータ(パソコン)に専用のソフトを用意することで実現するシステムと、専用のハードウェアを用いて実現するシステムがある。操作はキーボード、マウス、タッチスクリーン、タブレットペンなどで行う。記録媒体はRAM、大容量ハードディスク、光磁気ディスクなどがある。
今後は、DAWなどの単体機器にとどまらず、放送局内のデジタル音声機器をネットワークを通して結合し、ネットワーク上で音声信号の受信から送信までトータルに行える全デジタル音声放送システム(DTR、デスクトップラジオ)などへの新しい展開が考えられる。
[木村 敏]
各副調整室の出力や中継現場、他の放送局からの番組は、ここに集められ、時間によって切り替えられ、放送所や他の放送局へ送られる。生(なま)放送の多い中波ラジオでは、スタジオの音声が副調整室、主調整室を通ってすぐ放送所に送られるが、FM放送や中波ラジオの教育番組、コマーシャルなどは録音番組が多く、主調整室に録音再生機を備えて放送している。なお主調整室における番組の切り替えにはコンピュータ・システムが導入されており、複雑な作業を効率的に処理している。
[木村 敏]
音声番組の局外制作はテレビに比べて単純容易であり、機動性に富んでいる。したがってニュース、スポーツ、演劇をはじめ、自然音の収録など幅広く行われている。屋外制作での注意点は、マイクロホンに入る風の音である。マイクロホンの選択に注意し、またウィンドスクリーンの使用などによって風の音の軽減を図る必要がある。音源が移動する場合にはワイヤレスマイクを、また音源に近づけない場合には集音機を使用する。
局外中継の音声信号は、通常、電話回線を利用して主調整室に送られるが、中継車、ニュースカー、ヘリコプターなどの移動体からの中継も増えており、VHF連絡電話装置が活躍している。
[木村 敏]
音声番組を電波にのせ空間に放射する放送所には、放送機、アンテナ、非常用電源設備などを備える。中波、短波の放送所は広い敷地が必要なことと、放送所付近ではその強い電波によって他の放送局の電波が受信できなくなるため、人家の少ない郊外につくられる。また超短波放送の放送所は、テレビの放送所と同様に市内の高い鉄塔や都市近郊の山頂に置かれ、スタジオからの番組は有線または無線回線で放送所に届けられる。放送機器の安定度・信頼度が増したので放送所は無人化され、主調整室から遠隔制御されている。
中波放送は非常災害時における重要な放送メディアである。これは1995年(平成7)の阪神・淡路(あわじ)大震災のときにも認識されている。したがって、中波の放送機には高い信頼度が要求され、同一規格の送信機2台以上を並列運転する方式を採用するほか、予備送信機を備えていることも多い。また自家発電設備も設置している。中波放送の送信アンテナには、利得が大きく、アンチフェージング効果のよい支線式円管鉄柱の半波長垂直アンテナが多用されている。中波の波長は数百メートルなので、アンテナ高も200メートル前後になる。アンテナの支線や地中に埋め込む放射状銅線(アース)を張るためどうしても広い敷地を必要とする。NHK東京放送局の菖蒲久喜(しょうぶくき)放送所(第一放送300キロワット・594キロヘルツ、第二放送500キロワット・693キロヘルツ)の送信アンテナ高は、それぞれ245メートル、215メートルである。
短波放送の送信機は、送信方向や送信時間に応じた最適周波数を選ぶ必要から、1日のうちに数回送信周波数を変更することがある。また、電波を必要な方向に効率よく発射するため、指向性をもったアンテナを接続して使用する。したがって周波数の切り替えやアンテナの接続変更が容易なことが望ましい。
超短波放送はテレビの送信と同じ条件であり、テレビの放送所に併設され、送信鉄塔を共用することが多い。また、テレビと同様に山間地や離島には、親局の電波を受けて再送信する中継放送所が設けられている。
[木村 敏]
2000年12月にスタートしたBSデジタル放送は、ハイビジョン放送やデータ放送が中心であるが、テレビ放送とは別にBSデジタル音声放送(BSデジタルラジオ)を提供している。BSデジタルラジオは、2007年にいったんは放送終了となったが、2011年に放送大学が放送を開始したことにより再開された。
一方、地上デジタル放送では2003年12月に開始されたテレビジョン(地上デジタルテレビ放送)に先駆けて、同年10月に、地上デジタル音声放送(デジタルラジオ)の実用化試験放送が首都圏と近畿圏で開始されたが、2011年3月末に放送終了となった。
[木村 敏]
『日本放送協会編『放送五十年史』(1977・日本放送出版協会)』▽『日本放送協会編『放送技術双書』全14巻(1982・日本放送出版協会)』▽『NHK放送技術研究所編『ディジタル放送技術事典』(1994・丸善)』▽『日本民間放送連盟編『放送ハンドブック』(1997・東洋経済新報社)』▽『吉岡翔著『ラジオは何時もホットなメディア』(1997・弓立社)』▽『竹山昭子著『ラジオの時代』(2002・世界思想社)』▽『NHK放送文化研究所編『NHK・データブック世界の放送』各年版(日本放送出版協会)』
無線による音声・音響の放送,およびその受信機をいう。1922年8月逓信省(郵政省の前身)通信局は〈放送用私設無線電話〉という用語を用いているが,その伝統のせいか現行の電波法(1950制定)でもラジオを〈無線電話〉と呼び,〈電波を利用して,音声その他の音響を送り,又は受けるための通信設備〉と定義している。なお,街頭や学校,職場,店舗などの有線ラジオ放送は含まれない。また,送信するのは放送局,受信するのは公衆という面を考えているから,点から点へのポケット・ベル,タクシー無線なども含まれない。後述するミニFM放送などが境界線上に位置している。
ラジオ放送は,利用する電波の周波数によって中波放送,短波放送,超短波放送に分けられたり,あるいは,その変調方式から,振幅変調のAM放送(中波)と周波数変調のFM放送(超短波)に分けられたりする。AM放送は広いサービス範囲と簡便な受信形態に,短波放送はその電波の到達距離の長さから主として海外放送への利用に,またFM放送は高品質とステレオ放送にそれぞれその特徴がある。なおアメリカでは従来のAM局が,FMステレオ放送に対抗するためにAMステレオ放送を試み,一部で実用化されている。ただし方式は5通りあって統一されていない。また,ディジタル・オーディオ・ディスク並みの音質が保たれるPCM(パルスコード変調)による高品質音声放送は,日本ではFM放送の音楽番組で実用化されている。
ラジオの誕生は無線通信の開発の歴史につながる。J.C.マクスウェルによる電磁波の存在の予言(1864)から,H.R.ヘルツによるその存在の実証(1888)を経て,イタリアのG.マルコーニが1895年,無線通信の基本技術を発明した。その後はJ.A.フレミングの二極真空管の発明(1904),L.デ・フォレストの三極真空管の発明(1906)をばねに無線電信・電話は,第1次世界大戦中に急速に進歩した。こうした技術の発達を背景に,一般公衆を対象とするラジオ放送が生まれた。世界最初の正式放送は1920年11月2日,アメリカ,ペンシルベニア州ピッツバーグのKDKA局が行ったハーディング大統領の選挙報告だとされている。20年代前半には多くの国で次から次へと正式放送が始まった。21年フランス,22年イギリス,ソ連,23年ドイツ,ベルギー,24年イタリア,そして25年日本となる。その年3月22日(これがのちに放送記念日となる),社団法人東京放送局が東京芝浦の仮放送所で放送を開始した。翌26年8月,東京,大阪,名古屋の3局が合併,社団法人日本放送協会が設立され,日本のラジオ放送の普及が精力的にすすめられた。第2次大戦後は1950年の制度改革によって,翌年最初の民間放送のラジオ(中部日本放送と新日本放送(現,毎日放送))も開局され,新発足の特殊法人日本放送協会(NHK)と並んで今日まで発展してきた。国際的にみると発展途上国も含め,現在では世界中どこの国でもラジオ放送は行われている(NHK編《データブック世界の放送 1996》によると,テレビ放送未実施国は14ヵ国ある)。さらに最近は,電池で作動する簡便な携帯用受信機の普及もあって,いまやラジオ放送は文字どおり地球を覆い,利用も全世界的になっているといってよい。
これまでのラジオの歴史で注目すべきことは,テレビジョンの出現にともなうラジオ放送の変化である。多くの先進諸国でテレビ放送は1950年代に本格化したが(日本は1953年2月1日にNHKが正式放送開始),それまで印刷メディアに対抗できる唯一の強力な電波メディアであったラジオ放送は,みるみるうちに聴取者をテレビに奪われ,広告メディアとしての地位も急速に低下した。こうした状況に直面したラジオ放送はその後,再出発への苦しい努力を重ね,生放送を軸に身軽に動ける特性を生かした生活情報,音楽番組中心の番組編成,あるいは特定層を対象とした番組に活路を見いだすようになった。たとえば家事をしながらの主婦向けの番組,運転しながらのドライバー向けの番組,真夜中個室で孤独な生活を送る若者に語りかける深夜放送番組など,聴取対象を区分(セグメント)して絞る方向である。このほか,プライバシーが守りやすい利点を生かして,電話による受け手参加の告白番組やリクエスト番組なども多くなった。こういう深夜放送や告白番組などでは,局にいるタレントやキャスターなどと個々の受け手との間でパーソナル・コミュニケーションが成立しており,それを何万,何十万の大衆(マス)が同時に聞いて楽しむのだから,いわばマス・パーソナル・コミュニケーションだともいえるだろう。1978年6月の宮城県沖地震のとき,たとえば仙台市中心部の状況を企業名や氏名入りでくわしくラジオが放送することで,そこで働いている人たちの家族が安心する,という効用があったのもラジオのもつマス・パーソナル・コミュニケーションの性格のあらわれだといえよう(災害情報は,少なくとも衛星放送テレビ受像機が普及するまでは,ラジオの威力が発揮できる分野であった)。しかし,このようにラジオの対応によって一応安定した放送メディアの世界も,いままたいわゆるニュー・メディアの台頭で,こんどはテレビも含めて新たな対応を迫られており,今後ともラジオ放送は変容を続けていくものとみられる。
ラジオ放送は,送り出す放送局側にしても,受け取る聴取者側にしても,〈簡便さ〉がその特徴である。それであればこそミニFM放送局を開設する若者たちが出てくる。テレビのように高度にしてかつ高価で大規模な機械設備もいらなければ,番組そのものは手軽にでき制作費も安くすむ。受信する側はさらに簡便で,ますます低廉化し小さくなる受信機を利用して,歩行中でも,どこにいても自由にラジオ放送を楽しむことができる。こうした簡便性のためにラジオは,人々にとってきわめて身近でパーソナルなメディアであり,また人の肉声が呼びかけてくるメディアであり,〈生活の伴侶〉として受け入れられるにいたっている。
ラジオは電波によって伝播するマス・メディアを生活の中に定着させた。この基礎があったからテレビは急速に普及できた。スポーツ中継はもちろんのこと,NHK〈紅白歌合戦〉や〈のど自慢〉〈国会討論会〉のように,ラジオではじまってそのまま,もしくはほんの少しの変形でテレビに移行した番組が少なくないこともそれを証明している。しかもラジオは,われわれの生活や文化の深部に大きな影響を及ぼしてきた。たとえばラジオを身近に置いて他の行動をしながら聞く,いわゆる〈ながら聴取〉の習慣のせいで,生活行動に音楽や人間の声を伴わせたいという欲求が広まった。だからラジオ放送は音楽を,ひいてはレコードを普及させることに大きく貢献してきたし,ことにFM放送(日本では1969年に本放送開始)は,よりよい音質で音楽を聞きたいという欲求を喚起し,これがオーディオ機器の普及をもたらした。また番組の内容面では,電話による一般市民のラジオ番組への参加が一般化したことも見のがせない。もちろん,ラジオへの市民の参加の内容は必ずしも難しい話題ではなく,むしろ軽い日常的なものであるが,そうした日常性,簡便性を特色とするラジオ放送が,いったん市民生活にとって重要な環境変化が起こったときには,他のいかなるメディアよりも早くそのことに関し情報を提供していることが,人々のラジオへの信頼を支えているのである。停電のときでも電池さえあればラジオは聞ける。そのラジオの情報を通して人々は自分たちの環境の現況をともかくも把握することができるのである。
→テレビジョン →放送 →放送番組
執筆者:後藤 和彦+稲葉 三千男
演奏所(放送局内のスタジオ,外部の音楽堂,野球場,街頭のサテライト・スタジオなど)から送られてきた音声信号を電波にのせて放送する設備で,放送機と送信アンテナからなる。中波放送機の構成は,搬送波(音声信号をのせるための高周波)をつくるための発振部,音声信号を増幅し搬送波を振幅変調(AM)する変調部,アンテナとの結合部からなる。FM放送機の構成は,ステレオ変調を行うステレオ変調器,周波数変調(FM)しその信号を逓倍・増幅するFM励振器,電力増幅器からなる。なお,これらの放送機は半導体技術の開発によりほとんど半導体を用いているが,大電力の部分は真空管を用いている。なお,最近では比較的電力容量の大きい半導体が開発されてきて,1~3kWの全固体化放送機を複数基並列につないだ5~10kW放送機が開発され,10kW程度までは全固体化放送機が製作されるようになった。
中波放送機の変調は,振幅変調された信号の増幅の能率が悪いため終段で行い,終段の真空管の陽極電圧を音声信号で変える陽極変調が一般的である。なお固体化放送機では,音声信号によってパルス幅を変化させたパルス信号で終段の半導体を制御して振幅変調するPDM方式が主流である。FM放送機では,低い周波数でFM変調を行い,それを逓倍し増幅する方法を用いる。FM変調の方法には発振器のリアクタンスを音声信号で変えるリアクタンス方式と,のこぎり波を音声信号で位相変調し,それを周波数変調に変えるセラソイド方式がある。また,ステレオ放送では左,右の音声信号の和の信号と,左,右の音声信号の差で副搬送波(38kHz)を振幅変調した信号をつくるステレオ変調器を必要とする。ステレオ変調器は,演奏所と放送所間の回線が有線の場合には放送機の前段に,STリンク(スタジオと放送局を結ぶ無線または有線の回線)を使用する場合は演奏所のSTリンクの前段に入れて使用する。
放送機の出力は,高周波回路(放送機の切換え・合成回路やフィルターなどからなる)を通してアンテナに送られる。中波放送のアンテナは,円管鉄柱を垂直に立てて支線を張った方式が多く,その高さは4分の1波長から半波長(1波長は1000kHzで300m)程度である。FM放送のアンテナはテレビ放送が1チャンネルから3チャンネルを用いている放送所に併設されているときは,テレビ放送のアンテナを共用する場合が多い。それ以外ではテレビ放送でも多く用いられているスーパーゲインアンテナ,双ループアンテナなどが用いられる。
放送所は演奏所より離れた場所(FM放送では都市内のテレビ塔や山頂,中波放送は平たんな郊外地)にあることが多く,設備の運転,監視などを遠隔制御する自動化設備を備えており,特別な場合をのぞき無人運用している。また,予備機を設けたり,並列運転をしたりして,事故のないように努めている。また,小さなFM放送所では親局の電波を受信し,復調することなく周波数を変換して増幅し,再放送する局も多い。これを放送波中継局という。
受信機は受信した高周波信号を中間周波数(IF)に変換して増幅するスーパーヘテロダイン方式を用いている。その構成は,アンテナ,希望する電波の周波数(中波放送は526.5~1606.5kHz,FM放送は76~90MHz)に同調して増幅する高周波増幅器,中間周波数(中波放送は455kHz,FM放送は10.7MHz)に変換するための局部発振器と周波数変換器,中間周波増幅器,検波器,音声周波増幅器などからなる。
アンテナは,電波を能率よく高周波の電圧(電流)に変換するもので,中波放送では受信機に内蔵されたフェライトバーアンテナ(フェライトコアにコイルを巻いたもの),FM放送では受信機についたロッドアンテナ(棒状のアンテナ)か,屋外につけた八木アンテナを主に用いる。高周波増幅器は,受信された弱い高周波信号の中から受信したい周波数の信号を選択して増幅する。選択にはコイル(L)とコンデンサー(C)の同調回路を用い,トランジスターで増幅する。LC回路は固有周波数で共振し,その周波数の信号を強調して受信する働きがある。高周波増幅器の出力は,希望周波数の信号を強調してはいるが,その近傍の周波数の信号も含んでいる。これを中間周波数に変換し,さらに2~3段の同調回路で希望信号だけを分離し,増幅する。周波数変換と増幅を行うのが,局部発信器,周波数変換器および中間周波増幅器である。
中間周波増幅器出力は,変調された高周波信号である。この搬送波にのっている音声信号を取り出すのが検波器である。中波放送は振幅変調であるから,高周波のエンベロープ(包絡線)を取り出すエンベロープ検波を用いる。FM放送は周波数変調であるから,まず振幅を一定にするリミッター(振幅制限回路)を通し,FM検波する。FM検波の方法には,フォスターシーリー回路,レシオ検波器,カウンティング回路などがある。ステレオ放送の場合は,左,右の音声の和の信号のほかに,左,右の差の音声信号が副搬送波(38kHz)を振幅変調した信号を加えた多重方式となっているので,FM検波後の信号をステレオ復調器によって左,右の音声信号に分離し,増幅してスピーカーを駆動する。
最近の受信機は,多数の素子を一体化した集積回路(IC)を用いて小型化とコストダウンを行っている。また,ディジタル技術を用いたディジタル選局,メカニカルフィルターや水晶フィルターの利用など最新技術が取り入れられ,用途によっても小型な携帯型,音質を重視したチューナー型,自動車搭載用,カセットと一体化したラジオ・カセットなど多くの種類がある。
執筆者:遠藤 幸男
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ラジオ放送の略。放送局から電波を使って放送し,多数の受信者にきかせるマス・メディアの一つ。日本では1925年(大正14)3月,JOAK芝浦で仮放送を開始,7月から愛宕山(あたごやま)で本放送。ニュース・講演のほか,ラジオ体操・ラジオドラマ・音楽番組など新しい大衆文化をつくりだし,国民生活と密着した。中波による標準放送のほか,短波放送・FM(超短波)放送なども誕生したが,テレビの普及でマス・メディア第一の地位を譲った。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…電気を利用した家庭用電気機械器具(家電製品)のことで,テレビ,ラジオ,ステレオ,テープレコーダー,VTRなどの民生用電子機器と,冷蔵庫,洗濯機,掃除機,エアコンなどの民生用電気機器とからなる。ただし,照明器具,電球,乾電池などは含めない。…
…放送は無線通信による送信の一つの特殊な形態で,放送番組と呼ばれるまとまった情報を〈公衆によって直接受信されることを目的〉(放送法)として電波によって広く伝播することをいうが,一般にはラジオ放送,テレビジョン放送のことである。いわばあて先のない無線通信であるところから放送は他のマス・メディアにはみられないいくつかの特殊な機能をもつ。…
…マス・メディア(画一的な内容を大量生産する媒体。高速輪転機で印刷された新聞や雑誌,ラジオとテレビ,映画など)を用いて大量(マス)の情報を大衆(マス)に伝達するコミュニケーション。〈大衆伝達〉〈大衆通報〉などの訳語もあるが,〈マスコミ〉という日本独特の短縮形が愛用されており,この場合情報を生産する送り手(新聞社,出版社,放送局など)をさすこともある。…
…このように西洋音楽の世界化が強まる一方,民族的な様式が再発見されるという時代の傾向は,レコードのうえでも明らかに認められる。著作隣接権【大浜 清】
【ラジオとの関係】
聴覚メディアとしてのレコードは,そのあとに登場した同じく聴覚メディアのラジオとの間に,多くの国において一種の競合を生じた。しかし,それもラジオ放送開始の初期だけのことで,そのあとはかなり相互依存的関係が続いた。…
※「ラジオ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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