改訂新版 世界大百科事典 「バラッドオペラ」の意味・わかりやすい解説
バラッド・オペラ
ballad opera
18世紀のイギリスで流行した音楽劇の一種。J.ゲイの《乞食オペラ》(1728初演)によって確立。バラッドとは,当時は巷間で歌われる歌謡のことであったが,ゲイの作品は原則としてそれら既存の歌のメロディに新たに詞をつけ,せりふでつないだものである。したがって音楽的には庶民にも親しみやすかった。また,神話や王侯の世界ではなく庶民の世界を舞台にし,イタリア語ではなくてだれでも理解できる英語を用いるなど,当時人気のあったイタリア・オペラを庶民の立場からバーレスク化したものであり,風刺的な内容と相まって大いに人気を得た。技術的には,レチタティーボを退けて語られるせりふと歌とを併用した点が,従来のオペラと異なっていた。《乞食オペラ》の成功によって,ゲイのほかラムゼーAllan Ramsay,H.フィールディング,C.シバーなどもバラッド・オペラを書いた。他方,この流行はヨーロッパ大陸にも影響を与え,ドイツではジングシュピールと呼ばれる類似のジャンルを生み出した。18世紀後半のイギリスでは,ビカースタフIsaac Bickerstaffeなどが作品を発表したが,これらは既存の曲ではなくて新たに作られた曲を用いている点でゲイなどの作品と異なる。いずれにせよ,語られるせりふと歌との共存,高度の庶民性や風刺性,既存のジャンルに対するバーレスクなどの特徴において,バラッド・オペラは現代のミュージカルの先行芸能として重要である。
執筆者:喜志 哲雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報