改訂新版 世界大百科事典 「バリオ」の意味・わかりやすい解説
バリオ
barrio
フィリピンにおける地方行政末端組織としての村落,つまり行政村のこと。1972年からバランガイbarangayと改称されている。スペインが16世紀後半にフィリピンの植民地支配を開始した当時,フィリピン群島住民のあいだにはバランガイと呼ばれる村落共同体がみられた。それは30~100家族からなり,ダトゥdatuと呼ばれる首長に率いられた比較的小さな社会集団で,分布はきわめてまばらであった。限られた数のスペイン人宣教師と官吏でそれらを統治し布教するのははなはだ不都合であった。そこで打ち出されたのがバランガイ統合再編計画で,各地にまず教会を建設,そこに分散するバランガイを集めてカベセラ(中心集落)を作り,周辺部の集落をビシタ(近隣集落)と呼び,カベセラといくつかのビシタを統合してプエブロ(町)とした。これらがのちに改称されてプエブロはムニシパリティ,カベセラはポブラシオン,ビシタはバリオとなったが,行政の基本構造に変化はなかった。この構造のもとで地方行政の実質的末端はプエブロであった。バリオは多くの場合,人為的に区切られた行政的・地理的単位にすぎず,その首長はスペイン時代にティニエンテ(代行者),アメリカ時代にルーテナント(副官)の称号しか与えられなかった。こうして伝統的村落は自治機能の多くを失った。1959年のバリオ憲章(1964年改訂)は,こうした村落の自治機能の回復と拡大をねらって制定されたものである。そのポイントの一つはバリオに財政的基礎を与えるための村基金(不動産税徴収分の10%)交付と特別課税権限の付与であったが,その実効はいまだ乏しい。
執筆者:梅原 弘光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報