日本大百科全書(ニッポニカ) 「バーゾフ」の意味・わかりやすい解説
バーゾフ
ばーぞふ
Ivan Vazov
(1850―1921)
ブルガリアの作家、詩人。富裕商人で進歩的な父と文学的素養ある母の影響下で育ち、ロシアのリアリズム文学にも親しんだ。20歳のとき、商業実習のためルーマニアに行ったが、そこでカラベーロフ、ボテフらと会い、民族解放運動に加わった。以後、啓蒙(けいもう)活動と亡命生活のなかで、詩集『旗とグースラ』(1876)、喜劇『ミハラキ・チョルバジィ』(1882)、短編『ブルガリアの女』(1899)、史劇『ボリスラフ』(1909)その他、全領域にわたり多くの作品を著した。長編『軛(くびき)の下で』(1894)は、解放前夜のブルガリア人の生活と1876年蜂起(ほうき)を描いたもので、その民族解放思想は人々の心をとらえた。のちに彼自身の手で戯曲化したくらいで、諸外国語にも訳され、ブルガリア文学の地位を高めた作品である。革命後務めた文部大臣の仕事は不評で、また家庭的にも恵まれなかったが、国民詩人としての名声は高く、劇場などにその名が冠せられている。
[真木三三子]
『松永緑彌訳『軛の下で』(1979・恒文社)』