日本大百科全書(ニッポニカ) 「パブリック・キャリアー」の意味・わかりやすい解説
パブリック・キャリアー
ぱぶりっくきゃりあー
public carrier
自己のためではなく、一般公衆の需要に応じて、運送サービスの供給を行う運送業者をさす。具体的には、一般旅客や貨物を運送する鉄道、自動車運送、海運、空運などの業者を意味する。たとえば、日本ではJRグループ、日本郵船、日本航空などである。このパブリック・キャリアーと類似の語にコモン・キャリアーcommon carrierがある。コモン・キャリアーは、英米法のコモン・ローcommon law(一般慣習法)で使われる概念であるが、その本質的性格は、第一に、報酬を目的とする運送人であること、第二に、顧客を選択したり、運送引受けの拒否をしないこと、第三に、安全な運送を保証し、運送上の損失や損害に対して賠償責任を負うことに示される。このように、コモン・キャリアーは運送上の責任と義務の実態に即して規定された法的概念であり、パブリック・キャリアーはつねにコモン・キャリアーであるとは限らない。コモン・キャリアーに対して、特定の顧客を選択し、運送契約を特約して運送を引き受ける運送業者をコントラクト・キャリアーcontract carrierといって区別する。
歴史的には、最初は商人や生産者が自己所有の運送手段で運送を行うプライベート・キャリアーprivate carrierの形態が普通であった。たとえば、江戸時代の北前船(きたまえぶね)、イギリスの東インド会社などのマーチャント・キャリアーmerchant carrierがそれである。ところが、資本主義的生産の発展とともに商品流通が増大し、輸送手段が大型化、機械化するに伴って、運送能力の余力をもって他人の貨物の運送を引き受けるセミ・パブリック・キャリアーの形態が生まれ、さらに進んで、他人のために運送を引き受け、報酬を得ることを目的とする運送専業者が出現するに至って、パブリック・キャリアーが成立するのである。
[宇野耕治]
『前田義信著『交通経済学要論』(1982・晃洋書房)』▽『岡野行秀・山田浩之編『交通経済学講義』(1974・青林書院新社)』