日本大百科全書(ニッポニカ) 「パプア諸言語」の意味・わかりやすい解説
パプア諸言語
ぱぷあしょげんご
ニューギニアを中心として、西はチモール、ハルマヘラの島々、東はビスマーク諸島、サンタ・クルーズ諸島に至る地域で、一般に「パプア人」とよばれる人々によって話される非オーストロネシア系の諸言語の総称。言語数はおよそ700、話者人口は推定250万である。パプア・ニューギニア側の西部高地で話されるエンガ語は十数万の話者人口を誇っている。しかし大多数の言語は話者人口数百から数千の小規模なものである。音韻、文法、語彙(ごい)の諸特徴の差異が甚だしいが、近年、言語間の親縁関係の研究が進み、400ほどの言語についてはおびただしい数の「語族」が二十余の「語族群」にまとめられ、さらにその半数近くが「中央ニューギニア大語族群」とよばれる大きなグループにまとめられることが明らかになってきた。残りの言語についても互いの親縁関係が発見されているものがあるが、他の言語とまったく関係がないと思われる「孤児」的なものも多い。これほどの多様性をもつ言語群の特徴を一般的に述べることはむずかしいが、比較的詳しく研究されているパプア・ニューギニア側の東ニューギニア高地語族群について概観する。母音組織は東部語族のウスルファ語のi、e、a、o、uの五母音から西部語族の12母音までいろいろであるが、その構造は比較的単純である。子音組織には複雑なものがある。西中部語族のエンガ語では、前鼻音化、口蓋(こうがい)化、円唇化などを伴った子音がみられ、またカテ語では口蓋閉鎖を伴った唇音kp, gbがみられる。md, pmなどの結合を語頭にもつ語を有する言語も存在する(オビ語mda「毛」、離島ロッセル語pmil「やし」)。東部語族アウヤナ語の文Inaamaru anaamba mepaimiからわかるように、パプア諸言語には開音節語をもつものが多いが、n,ng,、(声門閉鎖音)などで終わる閉音節語をもつ言語もある。声調、あるいは高低アクセントをもつ言語も多い。たとえば、東中部語族のフア語では、ri「薪(まき)」:rI「矢」、airopa「地面」:AIropa「尻(しり)」のような違いがある(大文字の母音は高く発音される)。語構成のうえでは、東中部語族のベナベナ語の動詞の例me-na-ha-l-i-na-fi-he(否定―私―ぶつ―未来―彼―強調―疑問―態)「彼は私をぶたないか」のように、さまざまな要素が動詞に組み込まれる。多くの言語で名詞に数、格を示す要素が加えられ、また名詞にヨーロッパ語の「性」よりはるかに複雑な文法上のクラス分けがある。基本的語順は大多数の言語で「主語+動詞+目的語」である(海岸部のトアリピ語でForomai「男が」atute la「子供を」lei roi「捜す(未来)」)。
[杉田 洋]