改訂新版 世界大百科事典 「ビヒザード」の意味・わかりやすい解説
ビヒザード
Kamāl al-Dīn Bihzād
生没年:1450ころ-1536・37
イスラム絵画史上もっとも高名なイランの画家。ティムール朝のスルターン・フサインの宮廷書画院(ヘラート)でおもに活躍。晩年,サファビー朝の新都タブリーズに移り宮廷図書館長(1522)となってからの創作活動については不詳。彼は一般に言われているような革新的な画家ではなく,あくまでもペルシア絵画の伝統をふまえ,さらにそれをいっそう発展させた。ペルシア絵画に写実主義を導入したと言われているとおり,従来の類型的な図像に個性的特徴を賦与したばかりでなく,感情表出や心理的描写にも卓越した手腕を示した。従来の絵画空間における煩雑なモティーフを整理し,しかもバランスのとれた空間構成と微妙な色調による調和のとれた色彩構成を見せた。また伝統的な画題に飽き足らず風俗や肖像などの新しい主題を進んで採り入れた。代表作は,サーディーの教訓詩《果樹園》(1488,カイロ国立図書館蔵),ニザーミーの叙事詩《ハムサ》(1494・95,大英図書館蔵)など。
執筆者:杉村 棟
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報