日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファブリカ」の意味・わかりやすい解説
ファブリカ
ふぁぶりか
Fabrica
ベサリウスが著した解剖書。正しくは『人体の構造に関する七つの本』De humani corporis fabrica libri septemという。初版は1543年6月にバーゼルのオポリヌス書店から出版された。本文663ページで、300以上の正確な、美しい木版の図がある。図の筆者はティツィアーノの弟子のカルカルJohannes Stephan von Kalkarであろうといわれている。今日、系統解剖学とよばれる分野の全般にわたって、1人の手でこのような業績をあげえたことは、ほとんど例をみない。このときベサリウスは28歳で、パドバ大学の教授であった。自らの手で行った多数の人体解剖に基づいて書かれた本書には多くの新しい事実が盛られていて、それまで最高の権威とされていたガレノスの解剖学は崩れさり、新事実は200項目を超えるといわれる。1555年第2版が増訂版として出版された。本文は824ページに増加し、より科学的な価値を加えたことはもちろんだが、科学と芸術の融合した極致の書として文化史的にも高く評価されている。その後1782年までに25版を重ねた。
日本へは1656年(明暦2)ごろ渡来したものと思われるが、これを受容するだけの言語学的、医学的素地はなく、日本の医学に直接的な影響を与えることはなかった。
[深瀬泰旦]