日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
フェニルピラゾール殺虫剤
ふぇにるぴらぞーるさっちゅうざい
殺虫剤を化学構造に基づいて区分したときの分類の一つ。フェニルピラゾール系殺虫剤とは、含窒素5員環のピラゾールの1位にフェニル基が置換した構造的特徴を有し、害虫の神経伝達作用を阻害し神経系を抑制することにより広範囲の昆虫に対し高い殺虫効果を発現する殺虫剤の総称である。塩素化シクロアルカン系殺虫剤(有機塩素殺虫剤であるBHC、ドリン剤の総称)と殺虫作用機構が類似しているが、より環境汚染や生物濃縮の懸念がない殺虫剤である。フェニルピラゾール殺虫剤のフィプロニルは、日本では、1996年(平成8)から、とくに水稲用の殺虫剤として使用されている。
その殺虫作用は、抑制性の神経伝達物質であるγ(ガンマ)-アミノ酪酸(GABA(ギャバ):gamma-aminobutyric acid)が結合するGABA受容体(塩素イオンチャネル)にフィプロニルがGABAとは別の部位に結合して、GABAの神経伝達作用を阻害することにより、神経系の抑制が効かなくなり、興奮することに起因する。この作用は、塩素化シクロアルカン系殺虫剤と同じ作用である。また、昆虫の神経系には、GABA受容体と類似した構造と機能をもつグルタミン酸が作用する抑制性グルタミン酸受容体(塩素イオンチャネル)が存在し、フィプロニルは、この受容体にも作用する。
なお、自然界には、植物がつくるGABA受容体に結合する物質として、ピクロトキシニン(ツヅラフジ科)、アニサチン(シキミ)、ピクロデンドリン(トウダイグサ科)、シクトキシン(ドクゼリ)およびビロバライド(イチョウ)などの天然物が存在する。
[田村廣人]