日本大百科全書(ニッポニカ) 「シキミ」の意味・わかりやすい解説
シキミ
しきみ / 樒
[学] Illicium anisatum L.
シキミ科(APG分類:マツブサ科)の常緑高木。高さ2~15メートル。葉は互生し、全縁で葉脈は見えにくい。3~4月、薄黄白色の花を開く。花弁、雄しべは多数が螺旋(らせん)状に配列し、雌しべは8本ほどが輪生する。果実は袋果で、おのおの1個の種子がある。本州から沖縄、および朝鮮半島南部に分布する。近縁種のダイウイキョウ(トウシキミ)の実は大茴香(だいういきょう)または八角茴香(はっかくういきょう)とよび、香辛料として有名であるが、シキミは全体が有毒で、とくに果実は甘いが食べると死亡することもあるので注意を要する。材は緻密(ちみつ)で割れにくく、さまざまな用途がある。シキミ科Illiciaceaeはシキミ属1属のみからなり、日本、および中国から東南アジア、北アメリカ東部、中央アメリカに約40種分布する。つぼみを覆う鱗片(りんぺん)から花弁まで、形が連続的に変化する点などから原始的被子植物と考えられる。APG分類ではシキミ科とマツブサ科は、マツブサ科としてまとめられている。
[植田邦彦 2018年7月20日]
民俗
花柴(はなしば)としてもっぱら仏前や墓前に供えられる。シキビともいうが、枝葉を切ると一種の香気が漂うのでコウノキ、コウノハナ、あるいは墓に供えられることが多いのでハカバナともいう。精油を含んだ葉は抹香や線香をつくるのに利用されるため、マッコウ、マッコウギ、マッコノキの名もある。材は木炭、薪、砂糖の樽(たる)材などに用いられ、褐色の光沢がある果実は、有毒であるが子供がままごとなどに使って遊ぶ。山口県の一部ではこの実を「おしゃり」(仏舎利(ぶっしゃり)の意)と称し、善良な人が死ぬと胸にこの形に似たものが残るという。
[井之口章次 2018年7月20日]