フリードランダー(読み)ふりーどらんだー(その他表記)Lee (Norman) Friedlander

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フリードランダー」の意味・わかりやすい解説

フリードランダー
ふりーどらんだー
Lee (Norman) Friedlander
(1934― )

アメリカの写真家。ワシントン州生まれ。14歳から写真を撮りはじめ、1953年から55年までロサンゼルスアートセンタースクールで、エドワード・カミンスキーEdward Kaminskiに師事、写真を学ぶ。56年にニューヨークに移り、フリーランスの写真家として『エスクワイアEsquire、『スポーツ・イラストレイテッド』Sports Illustrated、『アート・イン・アメリカ』Art in Americaなどの雑誌の仕事で生計を立てながら、ロサンゼルス時代に始めたストリート・スナップの撮影を続ける。またジャズへの関心からジャズ・ミュージシャンを撮影するようになり、その写真が多くのレコード・ジャケットに使われる。

 1960、62年にグッゲンハイム助成金を得てアメリカ各地で撮影した、35ミリカメラによるスナップショット作品などで注目され、63年にジョージ・イーストマン・ハウス国際写真博物館(ニューヨーク州ロチェスター)で最初の個展を開催。66年に同館で開催された「コンテンポラリー・フォトグラファーズ――社会的風景に向かって」展、67年にMoMAニューヨーク近代美術館)で開催された「ニュー・ドキュメンツ」展(ほか出品者はダイアン・アーバス、ゲリー・ウィノグランド)に出品。この二つの展覧会は、社会に対してより個人的なビジョンを向けていく若手写真家を取り上げて、60年代後半のアメリカ写真界に大きな影響を与えたことで知られる。その両方の出品者となったフリードランダーは、ストレート・フォトグラフィ(撮影や現像焼付けなどの各プロセスで特殊な処理を行わず、対象を客観的、緻密に描写する作風)とドキュメンタリー・スタイルというアメリカ写真の大きな流れを受け継ぎつつ、60年代に台頭した新しい傾向を代表する写真家としての評価を確立した。

 従来のスナップショットによるドキュメンタリー写真が、社会的な文脈に即した慣習的な世界像に引き寄せながら出来事を捉えていくものであるとすれば、フリードランダーのスナップショットは、ショーウィンドーなどの反射像や透過像を画面に効果的に導入し、普段見慣れた世界と写真に撮られた世界の差異をあらわにすることによって、ウィットやユーモアを感じさせつつ、世界をより謎に満ちたものとして呈示する。ストリート・スナップのほか、ガラスや路面に映る自らの姿や影を撮影したセルフ・ポートレートのシリーズ(写真集『セルフ・ポートレート』Self Portrait、1970。撮影1964~69)や、南北戦争の記念碑などアメリカ各地の史蹟や記念碑をテーマとするシリーズ(写真集『ジ・アメリカン・モニュメント』The American Monument、1976。撮影1969~75)、また看板や落書きなどの街角のさまざまな文字をテーマとするシリーズ(写真集『レターズ・フローム・ザ・ピープル』Letters from the People、1993。撮影1979~88)、旅先のホテルの部屋のテレビとその画像を撮影したシリーズ(写真集『ザ・リトル・スクリーンズ』The Little Screens、2001。撮影1961~69)など、その撮影対象は内省的主題から社会が共有する情報や歴史観まで多岐にわたり、その全体を通じて浮かび上がる「社会的風景」がフリードランダーの写真世界を構成している。

 また、ニュー・オーリンズの無名の商業写真家E・J・ベロック E. J. Bellocq(1873―1949)が、1910年代に撮影した娼館の女性たちの肖像のガラス・ネガを発見し、そのプリントを制作、写真集『E・J・ベロック――ストーリービルの肖像』E. J. Bellocq; Storyville Portraits(1970)などを通じて紹介したことでも知られる。

[増田 玲]

『Self Portrait (1970, Haywire Press, New York. Second Edition 1998, Distributed Art Publishers, New York)』『The American Monument(1976, The Eakins Press, New York)』『Portraits (1985, New York Graphic Society, New York)』『Letters from the People (1993, Distributed Art Publishers, New York)』『The Desert Seen (1996, Distributed Art Publishers, New York)』『The American Musicians (1998, Distributed Art Publishers, New York)』『The Little Screens (2001, Distributed Art Publishers, New York)』『Lee Friedlander, John Szarkowski ed.E. J. Bellocq; Storyville Portraits (1970, Little Brown & Company, Boston)』『Nathan Lyons ed.Contemporary Photographers; Toward a Social Landscape (catalog, 1966, International Museum of Photography, George Eastman House, Rochester/Horizon Press, New York)』『Like a One Eyed Cat; Photographs by Lee Friedlander 1956-1987 (catalog, 1987, Seattle Art Museum, Seattle / Harry N. Abrams, New York)』

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百科事典マイペディア 「フリードランダー」の意味・わかりやすい解説

フリードランダー

米国の写真家。ワシントン州アバーディーン生れ。ロサンゼルスのアート・センター・スクールで写真を学ぶ。1955年から《エスカイア》《コリアーズ》《アート・イン・アメリカ》などの雑誌でフリーランスの写真家として働く。1967年,ニューヨーク近代美術館の《ニュー・ドキュメンツ》展にアーバスウィノグランドらとともに出品。日常的な現実を醒めた視線でとらえた作品が高く評価された。写真集に《セルフポートレート》(1970年),《アメリカン・モニュメント》(1976年),《ヌード》(1991年)などがある。

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