ウィノグランド(読み)うぃのぐらんど(英語表記)Garry Winogrand

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウィノグランド」の意味・わかりやすい解説

ウィノグランド
うぃのぐらんど
Garry Winogrand
(1928―1984)

アメリカの写真家。ニューヨークのユダヤ系の家庭に生まれる。1948年コロンビア大学在学中に写真を始め、翌年ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチで写真家、アート・ディレクターのアレクセイ・ブロードビッチAlexey Brodovitch(1898―1971)に師事。51年写真通信社ピクスの非常勤カメラマンとしてキャリアを始め、54年ヘンリエッタ・ブラックマン事務所に移籍。そこにいた同世代の写真家ダン・ウェイナーDan Weiner(1919―59)からウォーカーエバンズなど写真史上の巨匠の作品を教示される。翌年、全米を横断する撮影旅行をし、そこでの写真をMoMAニューヨーク近代美術館)のグループ展「ファミリー・オブ・マン」展に出品。50年代のウィノグランドの活躍の場は主に、『コリアーズ』Collier's、『スポーツ・イラストレイテッド』Sports Illustratedなどのグラフ雑誌であった。当時の写真には劇場やスポーツ会場、娯楽施設などさまざまな公共的サロンに集う人々への強い関心がみられるが、そうした公共空間での観衆という主題は、後年ウィノグランドの探求の中心となっていく。

 1960年代初めには、グラフ・ジャーナリズムでの仕事に意欲を失い、よりシリアスな表現に目覚める。そのきっかけとなったのは、自身の離婚問題や当時アメリカ社会が直面していたキューバ危機であり、家族と社会における自分の存在の無力さが、逆説的に自分の外側の世界を率直に見つめようとする自覚につながったといわれている。「写真とはつねに外側の世界のことだ。それは自分自身から外に出ることだ」というウィノグランドの言葉は、こうした自覚に由来する。64年グッゲンハイム財団の助成金を得たアメリカの南西部とカリフォルニア、ニューヨーク国際見本市での記録は、66年ジョージ・イーストマン・ハウス国際写真博物館(ニューヨーク州ロチェスター)でのグループ展「コンテンポラリー・フォトグラファーズ――社会的風景に向かって」、67年MoMAでのグループ展「ニュー・ドキュメンツ」で展示される。

 60年代に開花したウィノグランドの表現スタイルは、広角レンズを駆使した直截的で野性的なスナップショット特色をもつ。それは、ロバート・フランクの写真集『アメリカ人』The Americans(1958)にみられる形式破壊的な側面継承・発展させたもので、ウィノグランドは、従来の写真が価値を置いた整った構図やフレーミングといった形式面での約束事を、最も徹底して放棄した写真家の一人といえる。ウィノグランドは、60年代に成立した社会的風景を個人的な視覚で自由に切り取る、新たなドキュメンタリー写真の担い手たちのなかでも、とりわけ中心的な存在と目される。

 60年代の彼の仕事は、動物園の動物と訪れる人間を観察した写真集『動物たち』The Animals(共著。1969)、公共空間で遭遇した女性の一瞬の身振りに着眼する『女は美しい』Women Are Beautiful(1975)にまとめられる。この二つの写真集では、形式破壊者としての彼のラディカリズムよりも、寓意性や性的快楽といった意味の次元が強調される。このような強調は彼の観察者に徹した態度とともに、その死後、ポスト・モダニズムの政治的な言説において、無作為にせよ、性差別的もしくは人種差別的な場面を描写してしまっているとみなされ、批判の対象にもなった。69年から全米各地の大学で写真を講義しはじめた彼は、完全に商業写真と決別する。この年彼は、再度グッゲンハイム助成金を得て「イベントについてのメディアの影響」をテーマにした連作を開始、さまざまなイベントに参集する観衆の生気あふれるその写真は、写真集『パプリック・リレーションズ』Public Relations(1977)に結実した。72年ニューヨークからテキサス州オースティンへ移住、当地の畜牛やロデオなどをテーマにした連作写真集『ストック・フォトグラフス』Stock Photographs(1980)は、南部の風土を開放的に描いた佳作。メキシコのティフアナで死去。

[倉石信乃]

『Women Are Beautiful (1975, Light Gallery Books, New York)』『Public Relations (1977, The Museum of Modern Art, New York)』『Stock Photographs; The Fort Worth Fat Stock Show and Rodeo (1980, University of Texas Press, Austin)』『Garry Winogrand, John SzarkowskiThe Animals (1969, Little Brown, Boston)』『John Szarkowski ed.Garry Winogrand; Figments from the Real World (1988, The Museum of Modern Art, New York)』

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百科事典マイペディア 「ウィノグランド」の意味・わかりやすい解説

ウィノグランド

米国の写真家。ニューヨーク生れ。1945年―1947年,米国空軍に従軍。1947年より1951年まで,ニューヨーク市立大学とコロンビア大学で絵画を,またブロドビッチのもとで写真を学んだ。1952年よりフリーランスの写真家となる。ニューヨーク近代美術館で開催された《ニュー・ドキュメンツ》展にアーバスフリードランダーとともに出品し,エバンズフランクを継ぐ米国の写真家として脚光を浴びた。写真集に《アニマルズ》(1969年),《パブリック・リレーション》(1977年),《ストック・フォトグラフス》(1980年)などがある。

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