改訂新版 世界大百科事典 の解説
フリーピストンガスタービン
free piston gas turbine
ディーゼルエンジンとガスタービンとを組み合わせた複合型原動機の一種。図に示したように2サイクル・ユニフロー対向ピストン型ディーゼルエンジンをガス発生器として使用し,このガスをガスタービンで膨張させて動力を取り出すものである。ディーゼルエンジン側からは動力は取り出さないのでクランク軸や連接棒はなく,二つのピストンはリンク式の同期装置でつねに反対向きに動くようにするが,そのほかにピストンを拘束するものはなく自由に動きうるので,これをフリーピストンガス発生器という。フリーピストンガスタービンの作動の概略は以下のとおりである。ディーゼルシリンダーに入った空気を二つの対向ピストンで内方に圧縮し,燃料噴射弁から燃料を噴射して燃焼させる。燃焼ガス圧によってピストンは外方に運動し,圧縮機シリンダーに吸入弁から外気を吸い込み,同時にクッションシリンダー内の空気を圧縮してガス圧のエネルギーを蓄える。ピストンが外死点に近づくと排気孔,続いて掃気孔が開いてディーゼルシリンダー内のガスをガスだめに放出し,同時に掃気だめ内の空気でシリンダー内を掃除する。次にクッションシリンダー内の空気圧によってピストンは内方に運動し,掃・排気孔を閉ざし,ディーゼルシリンダー内の空気を圧縮して次の燃焼に備え,同時に圧縮機シリンダー内の空気も圧縮して,吐出弁から掃気だめに掃除用空気を供給する。一方,ガスだめに放出された排気ガスと掃除空気はガスタービンに導かれ動力を発生する。
フリーピストンガスタービンの作動原理は,1934年フランスのペスカラPaoul Pateras Pescaraによって発明され,その後主としてフランスで開発研究が進められた。46年にはフランス海軍の注文によってSIGMA社が製作したガス発生器が運転を開始し,これを基に1000馬力用のGS34型ガス発生器が実用に供された。フリーピストンガスタービンは,ガス発生器の熱効率が高く,ガスタービンと組み合わせた全体効率で36~38%が得られる。またディーゼルシリンダー内での燃焼状態が良好なため低質の重油が使用でき,排気ガスも掃除空気で希釈され450~500℃となるので,ガスタービンに高価な耐熱材料は不要である。構造は簡単,軽量,振動がほとんどないので据付けも容易で,出力を増加するにはガス発生器の台数を増すだけでよい。このように多くの利点をもつため,発電用,舶用主機関,産業用動力源として,60年代までは多数製造され使用されたが,その後はディーゼルエンジンにとって代わられ,現在では製造されていない。
執筆者:葉山 眞治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報