耐熱材料(読み)たいねつざいりょう(その他表記)heat resistant material

改訂新版 世界大百科事典 「耐熱材料」の意味・わかりやすい解説

耐熱材料 (たいねつざいりょう)
heat resistant material

高温における化学的・物理的耐久性をもつ固体材料の総称。耐熱材料は建物の防火材,高温作業時の防護服エンジンタービンボイラー溶鉱炉,ガラス溶融炉,窯業用各種炉の炉材,原子炉の炉材などに利用されている。近年,スペースシャトル外壁セラミックス耐熱材料が使用されて話題となった。

 物質はその周辺温度増加に伴い,雰囲気,あるいは接触物質との反応性が増大する。とくに問題となるのは空気中の酸素による酸化である。このため金属は空気中では高温で使えない。化学的反応性に対し安定な場合でも,さらに温度が上昇し,分解温度あるいは融点以上になれば物質は分解しあるいは融解し,原型を保つことができなくなる。ひとくちに耐熱材料といっても,対象とする材料により高温と定義される温度域は異なる。耐熱性高分子の場合200℃以上,耐熱性金属の場合500℃以上,耐熱性ガラスの場合800℃以上,耐熱性セラミックスの場合1200℃以上に耐えるということが一応の目安となる。より高温での利用という目的から,耐熱材料としては高融点あるいは高分解温度をもつ物質が選択される(ただし耐熱性繊維では難燃性,耐熱性ガラスでは高軟化温度が材料選定基準となる)。そのため逆に,耐熱材料ならば高融点,高分解温度をもつと考えてもよいだろう。

 すでに述べたように,耐熱材料にとっての高温域は対象とする材料による相対的な値である。高温での耐熱性について絶対的な比較を示すと次のようになる。

(1)高分子材料 高分子系材料(有機化合物)は軽さ,加工性という面から優れた材料であるが,物質の化学結合力の弱さにより,分解温度が低く,酸化を受けやすい。したがって本質的に500℃くらいが限界となる(耐熱性樹脂耐熱性繊維)。

(2)金属材料 いくつかの金属ではその融点が非常に高い(タングステン3407℃,タンタル2985℃,ハフニウム2222℃)。しかし金属の場合,高温で急速な強度の低下がみられると同時に,酸素との反応性が増大し酸化が内部にまで進行してしまうという欠点をもつ。そのため金属の耐熱材料開発は耐酸化性の強化を主眼になされてきた。鉄に多種の添加物を加えて作られる耐熱鋼は,フェライト系,オーステナイト系に大別され,前者で650℃,後者で800℃まで実用に耐える。本来酸素との反応性が大きい金属に耐酸化性,高強度をもたせる添加物は以下のように働いている。(a)表面層に安定物質を作り,酸化の進行を妨げる。(b)各成分が物質中で動きにくくする。(c)安定で硬い第2相を微細分散析出させる。これらを高融点金属を基本とする材料で実現することにより,1300℃程度でも使用に耐える材料を開発できるとされている(高融点金属材料)。

(3)セラミックス材料 高温でも安定であるという観点からみればセラミックス材料が耐熱材料として最も有効であろう。セラミックス材料は単一あるいはいくつかの金属元素と酸素,炭素,窒素等との化合物が主である。耐酸化性という意味ではセラミックス酸化物は金属が完全に酸化されたものであるから通常の空気中では問題なく,融点付近までの使用が可能である(むしろ低酸素雰囲気においていくつかの酸化物は還元されてしまう)。炭化物窒化物系セラミックスでは高温空気中において酸化されやすくなる(炭化ケイ素SiC1500℃,窒化ケイ素Si3N41200℃くらいまで使用可能)が,強度の面できわめて優れた特性をもつ。

 耐熱材料の選択基準に融点,分解温度の高さが大きな割合を占めることはすでに述べた。固体状態の物質が液体材料になることは,成分間の結合が弱まり,各成分が自由に運動を始めることによって起こる。したがって結合が強いものであるなら融点も高いものとなる。これは,弾性率が大きいほど,熱膨張率が小さいほど融点が高いという実験結果から裏づけられる。金属の場合,結合は比較的弱い金属結合によってなされているため,融点は一般に低い。セラミックスではイオン結合,共有結合が主体となり,融点は高い。セラミックスの場合は酸化物,窒化物,炭化物の順に融点は高くなる。これは結合様式がこの順にイオン性から共有性が強くなることに対応する。耐酸化性をもち,融点が高ければ有能な材料と考えることができるが,融点が高すぎれば材料の扱いにくさという問題が生じる。金属のように低融点で機械加工可能な材料では溶融物を型に流し込み成形し,機械加工により自由な形を作ることが可能である。しかしセラミックスのように高融点で,機械加工が難しい材料では,原料粉末を希望の形にあらかじめ成形し,焼結(高温で焼き固める)という作業により材料の形を作るのが一般的である。焼結を行うには通常融点の絶対温度の2/3以上の温度が必要であることが経験的に知られており,高融点材料では技術的に難しい。

 耐熱材料は,期待するすべての要件を同時に備えているような材料として扱われるものではなく,使用する温度,環境から,具備すべき特性を検討し,最適な材料を選択して使用することが望まれる。
ニューセラミックス
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「耐熱材料」の意味・わかりやすい解説

耐熱材料
たいねつざいりょう

高温に耐えられる構造材料。材料は一般に高温になるほど軟らかくなり、また加熱したことによる酸化やそのほかの化学変化を受けやすくなるので、耐熱材料にはこれらに耐える性質が要求される。大別すると耐熱金属材料とセラミックスとになる。タングステンやモリブデンのように2000℃以上の融点をもつ、いわゆる高融点金属は非常に酸化されやすく、真空中か不活性ガス雰囲気中以外では使用されない。クロムを13~20%添加して耐酸化性を与えた鉄、ニッケル、コバルト基合金を耐熱合金という。これらにモリブデン、バナジウム、チタン、アルミニウムなどを数%以上添加して高温強度を与えた合金を超合金super alloyといい、合金元素量が少ない鉄基合金を耐熱鋼という。クロムを含めて合金元素量の総計が数%以下の鋼を低合金耐熱鋼という。低合金耐熱鋼は約550℃まで、高合金耐熱鋼は約750℃まで、超合金は約950℃までかなりの強度を示す。これ以上の温度にさらされる場合は高融点金属かセラミックスを用いなければならない。

 セラミックスは古くから粘土など天然の原料を用いて焼き固めた陶磁器などの窯業製品として発達してきた。最近では酸化アルミニウムをはじめ各種の酸化物、窒化ケイ素や炭化ケイ素など多くの種類の化学的に精製された炭化物、窒化物、ケイ化物、ホウ化物などを緻密(ちみつ)に焼き固めた無機材料が研究されている。これらをニューセラミックス、ファインセラミックスという。セラミックス粉末を金属で結合したものをサーメットという。

[須藤 一]

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百科事典マイペディア 「耐熱材料」の意味・わかりやすい解説

耐熱材料【たいねつざいりょう】

高温における化学的・物理的耐久性をもつ金属(耐熱合金),高分子材料,セラミックスなど固体材料の総称。建物の防火材,高温作業時の防護服,エンジン,タービン,ボイラー,溶鉱炉,ガラス溶融炉,窯業用各種炉の炉材,原子炉の炉材などに利用される。スペースシャトルの外壁にはセラミックス耐熱材料が使用された。
→関連項目空力加熱傾斜機能材料

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