ディーゼルエンジン(読み)でぃーぜるえんじん(英語表記)Diesel engine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディーゼルエンジン」の意味・わかりやすい解説

ディーゼルエンジン
でぃーぜるえんじん
Diesel engine

燃料として、ガソリンよりも気化性が悪く、気化器では容易に気化できない石油燃料(灯油、軽油、重油など)を用いる往復動内燃機関

[吉田正武]

歴史

1893年ドイツの技術者ルドルフ・ディーゼルが考案したが、高圧縮比の機関をつくる技術が確立されておらず、1897年にいたって製作された。この機関は側弁式で、燃料は、高圧空気でシリンダー内に噴射される空気噴射であった。高圧縮に耐えるために重い機関になり、燃料を噴射する際に圧縮空気を必要とするため用途は据付け用に限られていた。その後、弁配置が頭上弁式になってから熱効率も高くなり、大型オットーガス機関と同等の性能をもつようになった。1905年ごろにブランドセッターG. Brandsetterが開発した高圧空気を用いない燃料だけを噴射する無気噴射ポンプ方式はその後改良され、ロバート・ボッシュ社によって1930年ごろから量産された。このポンプを用いると空気圧縮機は不用になり、小型のディーゼルエンジンに多く用いられた。2行程方式をディーゼルエンジンに適用する場合、掃気は空気だけでよく、2行程ガス機関でおこる逆火の心配もないため有望であった。1920年ごろにはスイスのズルツァー社が発電用の3000キロワット程度の2行程ディーゼル機関をつくっていた。その後、発電用、大型船舶用の1000キロワット以上の大型機関が2行程ディーゼルエンジンになった。これらはすべて掃気用の空気ポンプをもち、クランク室圧縮の機関は大型2行程ディーゼルエンジンではほとんどない。

 ディーゼルと同じ1893年ごろドイツのヒューゴ・ユンカースHugo Junkersは、一つのシリンダーの両端にある対向したピストンが同期して中央に向かって動いて圧縮し、中央で噴射された燃料が燃焼する2行程ディーゼルエンジン(対向ピストンエンジンといわれる)をつくった。吸気はシリンダーの一端で行われ、排気は他端で行われる。ガスがシリンダー内を一方向に流れるのでユニフローエンジンともいわれる。このエンジンは高い効率のため飛行機用も含めて長く広く使用された。

 掃気用送風機は機械駆動の容積型またはターボ圧縮機で、過給はあまり行われなかった。その後、より高出力を得るためと高い熱効率を得るために、排気タービンで駆動するターボ過給機による過給が実用化され、現在では高圧過給による大型2行程ディーゼルエンジンは熱効率50%に近く、1シリンダーで6000キロワット程度になっている。燃料は大型ディーゼルエンジンでは重油であるが、中型、小型ディーゼルエンジンでは、回転数を高くするため、着火性のよい軽油を用いており、小型自動車用ディーゼルエンジンでは200キロワット程度の出力で最高回転数が毎分4500回転に達している。

[吉田正武]

構造

基本構造は、シリンダー、シリンダーヘッド、ピストン、クランク軸、コネクティングロッド(コンロッドともいう)、カム軸、吸排気弁機構、はずみ車などからなる。燃料供給装置は、燃料供給ポンプ、燃料フィルター、燃料噴射ポンプ、燃料噴射弁からなる。多くは燃料噴射ポンプと燃料噴射弁の間を高圧用の燃料噴射管でつなぎ、ポンプのプランジャーをカムで駆動し、噴射弁は所定圧力になると、ばねに打ち勝って開く自動弁である。ポンプは、気筒数だけプランジャーのある列型と、少数のプランジャーから圧縮された燃料を分配器で各気筒の噴射弁に供給する分配型がある。また一部にはポンプと噴射弁が一体になりカムで駆動される一体型噴射装置があり、非常に高い噴射圧力を可能にしている。とくに自動車用では排気浄化と熱効率向上のために、20世紀末ごろから超高圧力での噴射を可能にし、噴射を高精度かつ自由に制御できるコンピュータ制御の噴射装置が主役になっている。この装置では高圧の燃料供給ポンプから全シリンダーに共通の燃料パイプ(コモンレールという)に燃料が送られ、各シリンダーの電子制御の噴射ノズルから、コンピュータで指示された燃料量が指示された時期とパターンで噴射される。燃料は燃焼室に噴射される。燃焼室がシリンダー、シリンダーヘッド、ピストン頂部に囲まれた単室式機関の場合、直接噴射式といわれる。また燃焼室が前記燃焼室のほかに連絡口でつながっているシリンダーヘッド内の燃焼室(副室という)からなる副室式では、燃料は副室に噴射される。これを間接噴射式という。排気清浄化と熱効率向上のために直接噴射が主になっている。

 ガソリンエンジンと異なり、吸気絞り弁はなく、つねにシリンダー内に十分に空気を吸入し、容積比で20分の1程度に圧縮し、空気の温度も500~700℃になる。燃料はこの高温高圧空気中に噴射され気化し、自発点火するので、出力は燃料噴射量で調整する。潤滑装置は、ピストンとシリンダーの間、各部のベアリングなどに潤滑油を送るもので、油ポンプ、油フィルター、油溜(あぶらだめ)からなる。とくに大型ディーゼルエンジンではピストンの冷却にも潤滑油が用いられ、潤滑油冷却装置をもつ。冷却装置は、多くの水冷式の場合は水循環ポンプ、ラジエーター(空気冷却のものと水冷のものがある)、温度調整器からなり、大型船舶用ディーゼルエンジンでは海水で直接冷却する場合がある。始動時のシリンダーが低温で、噴射された燃料の気化が悪いときの点火源として高温の熱栓をもつ機関が小型機関に多い。大型の機関でとくに流動性の低い重油を用いる機関では燃料の予熱装置を用いる。

 現在のディーゼルエンジンには4行程式と2行程式の両方があり、ピストンも単動式と複動式(ピストンの両側に燃焼室をもつ)がある。自動車用、耕うん機など農業用の小型機関では4行程の比較的高速の機関が多く、単動式に限られる。出力は数キロワットから200キロワット程度である。大型バス、トラック用でもほとんどが4行程の単動式である。船舶用の高速機関では4行程機関と2行程機関がともに使用され、2行程機関は掃気送風機をもち、両方とも過給機を取り付けている。大型の船舶用エンジンはほとんどが2行程機関で、高過給の複動式も多い。出力は1シリンダーで6000キロワット程度に達し、必要な馬力に達するまで気筒数を多くする。

 ディーゼルエンジンと同じように空気だけを圧縮し、燃料を噴射する機関がある。これは、起動時に燃焼室の一部(焼き玉(だま)といわれる)を外から加熱、赤熱状態にし焼き玉の中に燃料を噴射し、高温の壁からの熱で気化燃焼させるもので、焼き玉機関とよばれる。

 ディーゼルエンジンは、高い燃焼圧力に耐えられるように強くつくられるので重くなるが、ガソリンより低質の燃料が使用でき、熱効率が高く、燃料消費量が少ないので運転経費が安い。したがって、単位重量当りの出力がとくに要求される場合を除いて船やトラックなどの輸送分野で広く用いられている。また、熱効率が高いためにCO2排出率が小さいので、排気清浄化とCO2対策で乗用車用エンジンとして高圧過給、排気再循環、排気処理などを組み合わせた新しいディーゼルエンジンが、21世紀初めごろから広く使用され始めた。

[吉田正武]

『斉藤孟監修『自動車工学全書5 ディーゼルエンジン』(1980・山海堂)』『富塚清著『内燃機関の歴史』新改訂版(1984・三栄書房)』『鈴木孝著『ディーゼルエンジンと自動車――影と光 生い立ちと未来』(2008・三樹書房)』『John Robert DayEngines ; The Search for Power(1980, The Hamlyn Publishing Group Ltd.)』


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