日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベンソン」の意味・わかりやすい解説
ベンソン
べんそん
George Benson
(1943― )
アメリカのギタリスト、ボーカリスト。ピッツバーグに生まれる。ジャズ・ギタリストとして活躍したのち、1970年代にポップ・ボーカリストとして世界的な人気を博した。
10代のなかばから地元のバンドで歌とギターを担当し、その後、19歳でジャック・マクダフJack McDuff(1926―2001)のカルテットに参加する。マクダフはジミー・スミスと同じく、モダン・ジャズにおけるハモンド・オルガン演奏の道を開いたミュージシャンで、肩の凝(こ)らないダンス・ミュージックで人気があった。
ジャズはビ・バップ期を経て、1950年代から1960年代になると、ジョン・コルトレーンに代表される、じっくりと聴くための音楽と、踊ったり気軽に楽しむためのものとに分かれる傾向が顕著になった。前者は、とくに非黒人を含めたジャズ愛好者によって芸術的に高く評価され、反対に後者は黒人たちには身近な音楽として親しまれてはいても、「俗っぽい音楽」として下位にみなされることがしばしばであった。マクダフらのオルガンによるジャズもこの後者の範疇(はんちゅう)に入り、ここからはノリのいいファンキー・ジャズや、ラムゼイ・ルイスRamsey Lewis(1935―2022)の『ジ・イン・クラウド』(1965)のようなポップ・ジャズの大ヒットが生まれた。ベンソンも基本的にこの系譜に位置するジャズマンである。
ギタリストとしてのベンソンは、ジャズ・ギターの改革者の一人、ウェス・モンゴメリーが亡くなったことで、1960年代の終わりからモンゴメリーの後を継ぐプレイヤーとして、ロックやソウル・ミュージックの影響を受けたポップ・ジャズ・アルバムをつくっていた。しかし最大の転機は、1976年、ワーナー・ブラザーズに移籍してつくったアルバム『ブリージン』である。題名のとおり「そよ風が吹いているような心地よさ」を目ざしたこのアルバムは、レオン・ラッセルLeon Russell(1941―2016)の名バラード「ジス・マスカレイド」のカバー曲を中心として、ジャズ・ミュージシャンがポップ・マーケットで売れるためにはどのように「ジャンルの垣根」を乗り越えればいいのか、という問いに答えを出した。同アルバムはアルバム・チャート1位となり、同年のグラミー賞(ベスト・ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス部門)も獲得するアルバムとなった。ベンソンはこの成功をきっかけにして、1980年の『ギヴ・ミー・ザ・ナイト』にみられるように、ギターを抱え穏やかな歌をうたうボーカリストへと変身した時期もあった。
1970年代、ベンソンのように「ジャンルの垣根」を越えようと試みたアーティストは多く出現した。すでに1960年代からジャズとポップの境界線上で活躍していたクインシー・ジョーンズはむろんのこと、デビッド・フォスターDavid Foster(1949― )、ジョージ・デュークGeorge Duke(1946―2013)、ハービー・ハンコックなどはその一部で、ベンソンと同じギタリストとしてはブルース系のコーネル・デュプリーCornell Dupree(1942―2011)、ベンソンといっしょに活動していたアール・クルーEarl Klugh(1954― )、クルセイダーズから独立したラリー・カールトンLarry Carlton(1948― )などがいる。彼らは「クロスオーバー」や「フュージョン」とよばれた新しいポップ・ジャズ、あるいは「MOR」(ミドル・オブ・ザ・ロード。ロックやジャズといったジャンルにとらわれない聞きやすい音楽)と称された新しいイージー・リスニング・ミュージックの流れを築いたミュージシャンであった。
[藤田 正]