日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポリクレイトス」の意味・わかりやすい解説
ポリクレイトス
ぽりくれいとす
Polykleitos
生没年不詳。古代ギリシアの彫刻家。ペロポネソス半島北部シキュオンに生まれ、アルゴスの彫刻家ハゲライダス(アゲラダス)に学び、のちアルゴスの市民権を得たと伝えられる。活躍期は紀元前5世紀後半。彼は青銅彫刻の名手とされ、とくに人体の比例に深い関心を示し、支脚と遊脚(ゆうきゃく)による有機的関係、指、掌(てのひら)、前腕、上腕など人体各部のもっとも美しい比例率を数的・理論的に算出して男性立像の理想的形態を創造した。彼はその比例率を『カノン』と題する書物に記したと伝えられる。有名な「槍(やり)を担ぐ青年像(ドリュフォロス)」(ナポリ国立考古美術館)、「勝利の紐(ひも)を結ぶ青年像(ディアドゥメノス)」(アテネ国立考古博物館)はその比例率に基づいて制作されたもので、これによれば、人体のもっとも美しい比例率は頭部が全身長の7分の1を占めている。彼はそのほか「ヘルメス」、フェイディアス、クレシラスとの競作「アマゾン像」なども制作、上記諸作はいずれもローマ時代の大理石模刻で残されている。なお古文献によれば、前423年に再建されたアルゴスのヘラ神殿の黄金と象牙(ぞうげ)の本尊も彼の作であったと伝えている。
[前田正明]