前5世紀のギリシアの彫刻家。生没年不詳。フィディアスPhidiasとも呼ばれる。アテナイ出身でカルミデスの子。アテナイのアクロポリスに立つパルテノンの本尊アテナ・パルテノスおよびオリュンピアのゼウス神殿の本尊ゼウス像の作者として,すでに古代において絶大な名声を博していた。両像とも高さ12mを超える黄金象牙像で,原作は失われているが,後代の大理石模刻像,あるいは貨幣,彫石gem,絵画に写された小像などから,その本来の姿をある程度復元することができる。前438年に完成したアテナ・パルテノスは武装した女神の立像であり,そのあとでつくられたオリュンピアのゼウス像は,上半身を露わにして玉座に着く神の姿を表したものであった。オリュンピアでは美術家の工房の跡が確認されており,そこからは,制作に用いられた鋳型の断片やフェイディアスの名前が刻まれた土製の杯などが発見されている。ペリクレスの友人であったフェイディアスは,この政治家のアクロポリス復興事業の委嘱を受けてパルテノン神殿建造の総監督を務めており,したがって彼の芸術理念は,建物を飾っていた彫刻群の上にも強く反映していたと考えられる。ローマ時代の模刻像の中にフェイディアスの作風を明確に認めることは難しく,ただ《カッセルのアポロン》(カッセル美術館その他),《ルドビシのヘルメス》(ローマ国立美術館),《アナクレオン》(コペンハーゲン,ニ・カルスベルク彫刻館),《アテナ・レムニア》(ドレスデン国立美術館およびボローニャ美術館)など幾つかが,彼の原作を基にしているのではないかと考えられている。フェイディアスは,オリュンポスの神々の威厳と高貴さを最も純粋に表現することのできた,クラシック盛期の代表的彫刻家であった。彼は,神像の高価な材料を横領した罪で訴えられ,前420年ころおそらく獄中で没したと推測される。
執筆者:中山 典夫
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生没年未詳。古代ギリシアの彫刻家。紀元前500年から前490年ごろアテネに生まれたと思われる。活躍期は前460年から前430年ごろ。「円盤投げ」の作者ミロンと同様に、アルゴスの彫刻家ハゲライダス(アゲラダスともいう)に学び、のち青銅の「アテナ・プロマコス」「アテナ・レムニア」、黄金と象牙(ぞうげ)の「アテナ・パルテノス」、オリンピアの「ゼウス座像」など多くのモニュメンタルな神像を制作して、「神々の像の作者」とよばれた。彼の作風は単純、明晰(めいせき)、しかも高邁(こうまい)な精神性を示し、古典前期の「崇高様式」を確立した。しかし、これらの作品はほとんど残らず、わずかに「アテナ・レムニア」の頭部ならびに「アテナ・パルテノス」の大理石の模刻が残るにすぎない。これに対し、彼の総指揮のもとに造営されたアテネのパルテノンの大彫刻群は、彼の様式を伝える貴重な原作である。当代の優れた彫刻家による共同制作であるとはいえ、彼の構想と直接の指導によって完成されたもので、古典時代の傑作の誉れが高い。なお、1950年、オリンピアのゼウス神殿の西側で彼の工房跡が発見され、同地から「ゼウス座像」の衣片の雌型(めがた)や、彼の銘のある杯が出土した。
[前田正明]
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前5世紀
アテネ生まれの彫刻家。ペリクレスの友人。前447年パルテノン神殿建立の総監督となり,本尊のアテナ女神像(象牙と黄金でつくられ,高さ12m)は彼の作。アテナ・プロマコス像も有名。またオリュンピアでゼウス像をつくる。前432年にパルテノンは完成したが,彼の名声と地位は反ペリクレス派の憎むところとなり,追放されてペロポネソス半島西北のエリスに行き,晩年は不遇。
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…これを見た神々は後者の方が住民に有益な贈物と判定し,アテナに軍配をあげたので,以後この町は彼女の庇護下におかれ,その名もアテナイと呼ばれるようになったと伝えられる。ギリシア各地のアテナ神殿のうちでも最も名高いのはアテナイのアクロポリス上のパルテノン〈処女神宮〉で,ここに名匠フェイディアス作の女神の金象牙像(模作が現存)が安置され,プロピュライア(アクロポリスの入口をなす前殿)には同じ作者のアテナ・プロマコス(〈護戦者〉の意)の巨像がそびえていた。また市民が彼女の祭儀として盛大に挙行したパンアテナイア祭の行列が同神殿のフリーズに浮彫にされ,いまも往時をしのばせている(一部は原位置,他はアクロポリス美術館および大英博物館所蔵)。…
…この時代は一般には前5世紀後半の盛期クラシック(〈崇高な様式〉)と前4世紀の後期クラシック(〈優美な様式〉)とに区別される(この区別と命名はウィンケルマンによる)。盛期クラシックには,ペリクレスのアクロポリス復興計画に基づき,パルテノン,プロピュライア,エレクテイオンなどの壮麗な建物が完成し,彫刻では,フェイディアス,ミュロン,ポリュクレイトスらの巨匠が活躍した。前5世紀末のペロポネソス戦争,前4世紀の絶えまないポリス間の対立・抗争を通じて,人びとの感情・思想はより現実的・人間的になり,宗教的関心もしだいに弱まった。…
…したがってその職掌に,大はポリス(都市国家)から小は家,個人に至るまでの安全を守ること,政治的自由の擁護,主客の義を守ること,嘆願者の庇護,誓約の監視等,いずれも諸法規の未発達な古代社会ではきわめて重要な事項ばかりがあげられるのは当然として,やがては天上天下のいっさいはことごとく彼の摂理の下にあるとの見方も生じ,前5世紀の悲劇詩人アイスキュロスでは,彼はほとんど全知全能の正義の神にまで高められている。おそらく,そうした崇高なゼウスのイメージを念頭に置いてであろう,古代ギリシア最大の彫刻家フェイディアス(前5世紀)は,オリュンピアのゼウス神殿の本尊を制作した。それは金と象牙に飾られたゼウスの座像で,オリーブの冠をいただき,右手には勝利の女神ニケを捧げ,左手には彼の聖鳥たる鷲が止まった王笏を執って,あたかも神そのものを目にする想いを抱かせたと伝えられるが,現存しない。…
…アテネのアクロポリスに建つ,古代アテナイの守護神アテナ・パルテノスの神殿。パルテノンはアクロポリスの美化運動を推進した為政者ペリクレス,彫刻家フェイディアス,デロス同盟による豊かな財源,そしてペルシア人を打ち破った民衆の高揚した精神風土といった,好条件が重なり合って出現したもので,古代ギリシア文化の象徴的存在ともいえる。床面のわずかに盛り上がった湾曲,すべての柱の内部への傾斜など,視覚的な建築美も徹底的に追求されている。…
※「フェイディアス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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