一般に,礼拝の対象として安置する重要な尊像の意。すなわち,本堂などに修行や礼拝の対象として安置する仏,菩薩像,画像などをいう。一堂宇のなかにあるいくつかの尊像のうち主たるもの,また脇侍や眷属と区別して中尊を意味することもある。本尊の語は《大日経》説本尊三昧品・世間成就品・秘密八印品,《大悲空智経》大相応輪品・俱生義品などにみられる。古来,それぞれの寺院が創建される趣旨や願主の信仰によって,それぞれの仏像が本尊として安置された。法隆寺金堂や興福寺金堂の本尊は釈迦如来であり,薬師寺金堂や延暦寺根本中堂は薬師如来,東大寺大仏殿や唐招提寺金堂は盧舎那仏,園城(おんじよう)寺金堂は弥勒菩薩というように,それぞれの主尊が安置されて本尊とされている。また密教では,大日を普門(ふもん)の本尊とし,阿弥陀・薬師如来などを一門の本尊とする。大日如来が普遍的存在であって他の仏はすべて大日如来の一門として現れた存在とするのである。日本仏教においては,浄土教によって本尊が択一的な存在として認識されたといえよう。すなわち,阿弥陀仏への無心の帰依に集約されたところに,阿弥陀三尊のもつ意義があると考えられる。浄土真宗は木像・絵像の阿弥陀仏にこれを表すほか,〈南無阿弥陀仏〉等の名号(みようごう)を墨書して本尊とした。これを名号本尊とよぶ。さらに日蓮宗では〈南無妙法蓮華経〉を中央に大書し,釈迦・多宝以下,《法華経》説法の教主釈尊の木像に地涌菩薩(じゆのぼさつ)の代表である四大菩薩を脇侍としてそえ,情景を文字化した大曼荼羅(だいまんだら)本尊,または釈尊が四大菩薩をしたがえた一尊四士(いつそんしし)を本尊とする。なお,日蓮教学では本尊の意義を〈本来尊重(ほんらいそんちよう),根本尊崇(こんぽんそんすう),本有尊敬(ほんぬそんきよう)〉の3面から規定している。
執筆者:渡辺 宝陽
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
寺院や仏堂において供養・信仰の対象となる主尊たる仏・菩薩(ぼさつ)像のこと。本仏、本師ともいい、釈迦(しゃか)三尊像のように脇侍(きょうじ)や眷属(けんぞく)を従えた場合には、中尊ともよばれる。本尊は寺院創立の由来や施主の信仰などによって異なる。また各宗派によってそれぞれ一定の本尊があり、たとえば密教では大日如来(だいにちにょらい)、浄土教では阿弥陀仏(あみだぶつ)または弥陀三尊、日蓮(にちれん)宗では日蓮の描いた十界勧請大曼荼羅(じっかいかんじょうだいまんだら)などを本尊としている。
[松本史朗]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…グプタ朝の北インド征服が完成したチャンドラグプタ2世(在位376ころ‐414ころ)の治世に,一時停滞していた北インドの造形活動はふたたび活況を取り戻し,やがて洗練された技法により均整のとれた崇高な美しさをそなえた仏像を生み出すようになった。ストゥーパに従属していた仏像が,本尊としての地位を獲得するようになったのもこの時代である。グプタ様式の造像は帝国の領域内のみならず,同盟関係にあったバーカータカ朝治下のアジャンターなどデカン北部にも及んだが,その中心はマトゥラーとサールナートで前者は5世紀前期から中期に,後者は5世紀末期に最盛期を迎えた。…
※「本尊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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