ビフェニルC6H5-C6H5の二つのベンゼン環がもつ10個の水素原子の2~10個を塩素原子で置き換えた化合物の総称で、C12HnCl10-nの一般式で示すことができる。PCBと略記される。
置換している塩素原子の数や位置によって、理論的には209種類の異性体が可能である。毒性が強いために現在ではPCBの製造と使用は禁止されているが、以前、工業製品として使われていたものは、これらの多数の化合物の混合物で、塩素1個のモノクロロビフェニルも含まれていた。
PCBは、工業的には、最初にベンゼンを銅管中で700~850℃に加熱してビフェニルにしてから、これを塩素化して製造されていた。反応温度や塩素の量により塩素化の度合いを調節でき、使用目的に応じて比重1.18~1.74、沸点275~360℃の数種の製品が市販されていた。塩素含有量が低いものは無色油状(塩素量43%以下)であるが、塩素の量が増すにしたがって黄色粘性油状、褐色樹脂状、結晶性固体(塩素量およそ65%)になる。いずれも水に不溶で、クロロベンゼンなどの有機溶剤に可溶である。非常に安定な化合物で、300℃に加熱しても変質せず、不燃性で、耐酸性・耐アルカリ性にも優れており、また電気抵抗が高く絶縁性に優れていた。
このような特性を利用して、一時は、変圧器やコンデンサーの絶縁油、熱交換器の熱媒体、インク、塗料、ノーカーボン複写紙、蛍光灯の安定器、電力ケーブル被覆用合成ゴムの可塑剤などに広く利用された。全世界では総生産量はおよそ100万トンといわれ、日本でも1954年(昭和29)から製造が始まり1972年に製造と使用が中止されるまでに6万トン程度が生産されていた。
しかし、PCBの使用範囲が広まるにしたがって、その毒性が問題になってきた。安定で分解しにくいPCBは、生体中では脂肪組織に蓄積しやすいうえ、皮膚や内臓に障害を与え、発癌(はつがん)性が認められ、ホルモン異常をおこすことも知られ「環境ホルモン」の一つに数えられた。その毒性は置換している塩素の位置や数により大きく異なり、オルト(2、2'、6、6')の位置が塩素置換されていないコプラナーPCBの毒性が非常に強いといわれている。
廃棄されたPCBが環境中に拡散し、野生生物への蓄積量が増加し、魚、アザラシ、カモなどの生物の生殖機能に悪影響を及ぼす事例が世界各地で報告された。他方で、日本ではPCBの食用油への混入による中毒(PCB中毒)がおこり、製造および使用の規制への動きが強まり、1974年に製造および輸入が原則的に禁止された。現在では、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(1973年10月施行)により、その製造と使用が厳しく規制されている。製造と使用が禁止された後も、安定なPCBを分解・無毒化することが技術的にむずかしく、使用者が保管して処理基準の決定を待っている状況であったが、2001年に採択された国際条約「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(ストックホルム条約)にのっとって無毒化処理の道筋が開けた。
このような国際的な動きに対応して、日本では2001年(平成13)に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB特別措置法)が制定され、これにのっとって「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」が策定されて、環境事業団がPCBの処理を引き受けることになった。2004年には環境事業団から事業を引き継いだ日本環境安全事業株式会社が、高圧トランス・高圧コンデンサー・コンデンサーを内蔵する安定器(蛍光灯用)などの電気機器、PCBを含む廃油・感熱紙などが保管されているPCB廃棄物の処理事業を始めた。2014年の法改正に伴い、この事業は中間貯蔵・環境安全事業株式会社に引き継がれ、現在のところ、2027年3月にすべてのPCB廃棄物の処理を完了する計画である(高濃度PCB廃棄物に関しては、地域により異なるが、2019~2024年の間に処理を完了する予定)。PCBの処理技術としては、従来より行われていた高温焼却(1100℃以上、2秒以上滞留)のほかに、金属ナトリウムなどによる脱塩素化分解、水熱酸化分解、還元熱化学分解、光分解、プラズマ分解による処理技術が認められている。
[廣田 穰 2016年2月17日]
『廃棄物法令研究会監修『ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法逐条解説・Q&A』(2002・中央法規出版)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
「PCB」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ポリ塩化ビフェニルpolychlorinated biphenylの略。2個のベンゼンがつながったビフェニルに塩素がついたもので,塩素のつく位置と数で多くの異性体がある。…
※「ポリ塩化ビフェニル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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