翻訳|plasticizer
高分子,合成樹脂に流動性を与え成形しやすくしたり,成形品に柔軟性を与えるために添加される物質をいう。高分子によく溶け合い,溶媒のような働きをする物質である。可塑剤の歴史は,19世紀後半セルロイドを製造するさいに,高分子であるニトロセルロースに熱可塑性を与えるためにショウノウを加えたことに始まるが,大きく伸びたのは,第2次大戦後ポリ塩化ビニルが合成樹脂として広く使用されるようになってからである。ポリ塩化ビニル製のふろしき,靴,かばんなどを柔らかくて,しなやかにするため,40~60%の可塑剤が添加される。また,パイプ,雨どいなど硬い性質が要求される場合でも,成形しやすくするために数%の可塑剤が添加される。このように可塑剤を添加することによって,高分子の特性は大きく改良され,かつ用途も大きく広がる。
ポリ塩化ビニルの可塑剤としてよく用いられるのは,フタル酸ジオクチルdioctyl phthalate(DOP),フタル酸ジブチルdibutyl phthalate(DBP)などのフタル酸エステル類である。可塑性のほか,難燃性や耐油性を改良するため,リン酸トリクレシルtricresyl phosphate(TCP)などのリン酸エステルも用いられる。ポリ塩化ビニルは光や熱によって分解し,塩化水素を発生するが,この塩化水素をとらえる働きをもつ可塑剤として,エポキシ化合物も用いられる。とくに食品用,医療材料用には,エポキシ化ダイズ油などが使用される。
このように,可塑剤の性能としては,(1)高分子とよくまじること(相溶性),(2)生体に対し毒性のないこと(安全性),(3)揮発してなくならないこと(耐熱性),(4)低温でも可塑剤としての性質を失わないこと(耐寒性),(5)高分子から抜け出ないこと(非移行性,非ブリードアウト性),などが要求される。現在,ポリ塩化ビニルに対して,これらすべての要求特性を満足する可塑剤はまだ見いだされていず,新しい可塑剤を目ざして研究開発が続けられている。さらに,ブリードアウトしやすい低分子量の可塑剤を加えなくてもよいように,高分子自体を共重合などにより改質する方法(内部可塑化という)などの検討が進められている。
代表的な可塑剤の種類と特性を表1に,日本の可塑剤生産量を表2にあげる。
執筆者:森川 正信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
高分子材料の溶融粘度,ガラス転移温度,弾性率などを低下させて,材料に柔軟性を与えるために加えるもの.たとえば,高分子材料を可塑化するには,ガラス転移温度の低い単量体と共重合させて分子構造を柔軟(分子内可塑化)にするか,可塑剤を加える方法がある.高分子を可塑化すると,高分子鎖の凝集力の低下,ガラス転移温度の低下などが起こり,柔軟性が増加して成形加工特性が向上する.可塑剤としての条件は,
(1)高分子材料と均一に混和する(相溶性がよい),
(2)無色,無味,無臭,無害である,
(3)熱,光,有機溶媒などに安定である,
(4)水,油,溶剤により抽出されない,
(5)融点,沸点が高く蒸発しない,
ことなどがあげられる.高分子材料の可塑剤として,フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOP)やフタル酸ジブチル(DBP)などがよく利用されている.また,高分子自身が可塑剤となるものがある.分子量が1000以上の高分子は揮発性が低く,耐抽出性がよいことから,分子量約1000~8000のポリエステルが低分子可塑剤と併用されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
各種の高分子物質に添加して加工温度を低下させて成形加工を容易にし、かつ製品を軟らかくする低分子量の添加剤。たとえばポリ塩化ビニルに可塑剤を入れると、ポリ塩化ビニルと溶け合って材料を軟らかくするもので、その添加量によって硬軟を自由に調節することができる。線状高分子中に可塑剤を入れると、可塑剤が高分子中に溶け込んで分散する。このような状態は、重量物を動かすときにころを使うと動かしやすいという原理と同じである。高分子が動きやすいということは、軟らかくなり、比較的低温でも軟化して成形加工が容易になり、成形物は適当な弾性をもつようになるということである。可塑剤の条件としては、その高分子となじみやすく、不揮発性で、高分子成形物の表面ににじみ出してこないようなものがよい。
[垣内 弘]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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