PCB中毒(読み)ピーシービーちゅうどく(その他表記)PCB poisoning

六訂版 家庭医学大全科 「PCB中毒」の解説

PCB中毒
ピーシービーちゅうどく
PCB poisoning
(食中毒)

どんな中毒か

 PCB(ポリ塩(素)化ビフェニル)は、多くの異性体をもつ物質の総称です。かつて熱媒体トランスの絶縁体、複写紙などに用いられていましたが、現在では原則的に使用が禁止されていますし、国際的なPOPs条約では2028年までに全廃する目標です。過去の使用によって環境が汚染されたため、現在も魚などを通じてわずかに摂取されていますが、健康には影響ないレベルと考えられています。

 1968年に、カネミ倉庫株式会社製造の米ぬか油(ライスオイル)中にPCBが混入したことによる大規模な中毒事件(カネミ油症事件)が発生しました。実際には、含まれていたPCDF(ポリ塩(素)化ジベンゾフラン)が中毒の原因とされています。

症状の現れ方

 顔面臀部(でんぶ)などの痤瘡様(ざそうよう)皮疹(塩素痤瘡)、顔面、歯肉、爪などの色素沈着、眼脂(めやに)などが特徴的な症状です。

 油症の患者さんからは、メラニン色素の強度な沈着を意味する「黒い赤ちゃん」が生まれていて、母胎から胎児への影響も認められています。また、とくに若い女性の患者さんには、子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)などのさまざまな生殖障害が発症しています。

検査と診断

 油症の患者さんでは、血清中トリグリセリド(中性脂肪)の著しい増加がみられ、脂質代謝異常が起こります。

 油症の診断では痤瘡様皮疹や色素沈着がみられるかが診察され、血中PCB濃度やPCBの二量体であるPCQ濃度やPCDF濃度などが測定されます。

治療の方法

 絶食療法でPCBやPCDFの排出を促進します。また、米ぬか繊維とコレスチラミン(コレステロール低下薬)を服用すると、PCBやPCDFの糞便への排泄が促進されたという報告もあります。一方、対症療法としては、脂質代謝改善薬や神経症状改善薬などが試みられます。いずれにしても根治は困難です。皮膚症状に対して手術を行うこともあります。

食品の規格基準

 PCBの暫定的規制値は、遠洋沖合魚介類(可食部)0.5ppm、内海内湾魚介類(可食部)3ppm、牛乳(全乳中)0.1ppm、乳製品(全量中)1ppm、育児用粉乳(全量中)0.2ppm、肉類(全量中)0.5ppm、卵類(全量中)0.2ppm、容器包装5ppmです。

米谷 民雄

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「PCB中毒」の意味・わかりやすい解説

PCB中毒
ぴーしーびーちゅうどく

PCB(ポリ塩化ビフェニルpolychlorinated biphenyl)はDDTBHCなどの農薬と同様に有機塩素化合物の一つで、これが環境汚染物質として体内に蓄積され、健康を害するに至ったものをPCB中毒という。PCBは欧米では1930年ころから、日本では1954年(昭和29)から工業生産が開始され、絶縁性、不燃性などの特性により、電気機器の絶縁油やノーカーボン紙などに広く用いられてきた。しかし1966年以降、世界各地でPCB汚染が疑われるようになった。PCB汚染は、すでに水生生物、鳥類、人の母乳や脂肪組織など広範に及んでいることがわかっているが、製造禁止と廃棄物管理の規制によって環境におけるPCB濃度は減少していくものとみられている。

 日本では、1968年に福岡県で、PCBなどに汚染された米糠(こめぬか)油を摂取したことが原因の食中毒が多発した。症状は、顔面や臀部などにみられる黒色のにきび様皮疹(ひしん)、また顔面や眼瞼(がんけん)結膜および爪(つめ)にみられる黒色の色素沈着、上眼瞼の浮腫(ふしゅ)や目やになどが特徴的である。また患者の母親から汚染油が胎盤を通じて胎児に移行し、黒い赤ちゃんも生まれた。患者は長崎県にも多発し、1976年には患者数が1540人に達した。原因は、米糠油製造の脱臭工程において熱媒体として用いたPCB、およびPCBの一部が熱などにより酸化した、より毒性の強いダイオキシン類の一種であるポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)などが米糠油に混入したことによる。この食中毒事件は食用油の摂取により発症したため、中毒症状が油症(ゆしょう)、カネミ油症などとよばれることから、カネミ油症事件とよばれる。なお、PCBは1972年に製造・使用および輸入が禁止された。

[重田定義]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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