マイトレーヤ
Maitreya
インド大乗仏教の瑜伽行派(いっさいは唯だ識の表れにすぎないという唯識説を説く学派)の始祖とされる人物。弥勒(みろく)と音訳,慈氏と意訳される。瑜伽行派の論書では,マイトレーヤは兜率天(とそつてん)に住する当来仏で,《摂大乗論》などを著したアサンガ(無著(むぢやく))に唯識の教理を伝授した菩薩であるとされるが,このような伝説は後世の創造であり,彼は実在した史的人物であるとみなす学者もあり,その代表が宇井伯寿説である。彼に帰せられる著書としては《大乗荘厳経論》《中辺分別論》《法法性分別論》《究竟一乗宝性論》《現観荘厳論》などがある。なお《瑜伽師地論》は漢訳では弥勒菩薩説となっているが,この論書の著者をめぐっては,マイトレーヤ説,アサンガ説,複数の人の手になるとみる説などあっていまだ定説はない。とにかく,弥勒菩薩信仰におけるマイトレーヤとは別の人物として彼は取り扱われるべきである。
→唯識派
執筆者:横山 紘一
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「マイトレーヤ」の意味・わかりやすい解説
マイトレーヤ
インドの仏教哲学者。弥勒(みろく)と音訳,慈氏と意訳される。唯識(ゆいしき)派の始祖とされ,無著(むぢゃく)の師という。弥勒菩薩と混同されるが,実在の人とする説がある。《大乗荘厳経論》などがその著とされるが,《瑜伽師地論(ゆがしじろん)》の著者については諸説ある。
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世界大百科事典(旧版)内のマイトレーヤの言及
【弥勒】より
…サンスクリットのマイトレーヤMaitreyaの音訳とされているが,〈弥勒〉という名前そのものはクシャーナ朝(1世紀半ば~3世紀前半)の貨幣にあらわれる太陽神ミイロMiiroに由来すると思われる。クシャーナ朝下で用いられた言語でミイロはイランの太陽神ミスラMithraに由来し,したがってベーダの契約神ミトラMitraと関連する。…
【弥勒】より
…サンスクリットのマイトレーヤMaitreyaの音訳とされているが,〈弥勒〉という名前そのものはクシャーナ朝(1世紀半ば~3世紀前半)の貨幣にあらわれる太陽神ミイロMiiroに由来すると思われる。クシャーナ朝下で用いられた言語でミイロはイランの太陽神ミスラMithraに由来し,したがってベーダの契約神ミトラMitraと関連する。…
【弥勒信仰】より
…インドに成立し,東南アジア・東アジアの諸民族に受容された弥勒信仰は,未来仏である[弥勒]菩薩(マイトレーヤMaitreya)に対する信仰で,仏教に内包されたメシアニズムである。弥勒菩薩は釈尊入滅の56億7000万年後に,弥勒浄土である[兜率天](とそつてん)よりこの世に出現し,竜華樹の下で三会にわたって説法し,衆生救済を果たすと信じられている。…
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