あらゆる事象は唯(た)だ識が変化したものにすぎないという唯心論を唱える,インド大乗仏教の学派。ヨーガの実修を好む瑜伽師(ゆがし)と呼ばれる人びとによって創立されたことから瑜伽行派(ヨーガーチャーラYogācāra)または瑜伽行唯識派とも呼ばれる。唯識説は3~4世紀ころに,《解深密経(げじんみつきよう)》《大乗阿毘達磨経(だいじようあびだつまきよう)》などによって初めて主張された。論書としては《瑜伽師地論》が最古層に属する。この唯識派は弥勒(マイトレーヤ,350ころ-430ころ),無著(アサンガ,395ころ-470ころ),世親(バスバンドゥ,400ころ-480ころ)によって教理が発展させられ組織・体系化された。とくに世親の最後の著作《唯識三十頌》はその後に多大な影響を与えた論書であり,この論の解釈をめぐって数多くの論師たちが輩出した。世親後の重要な論師としては,陳那(ぢんな)(ディグナーガ),無性(むしよう),安慧(あんね),護法(ダルマパーラ),戒賢,法称(ほつしよう)(ダルマキールティ)らがあげられる。学派としては,世親→安慧→真諦と続く無相唯識派と,陳那に始まり無性→護法→戒賢→玄奘とつながる有相唯識派とが対立した。この唯識派の思想が中国にもたらされ,地論宗,摂論宗(真諦の系統),法相宗(玄奘の系統)の三つの学派が成立した。とくに最後の法相宗は,17年にわたるインド留学を果たした玄奘とその弟子である窺基(きき)によって創立された学派であり,唐代には一大勢力を得て栄えた。この法相宗は,中国への留学僧たちによって飛鳥・奈良時代の日本に伝えられ,日本法相宗が成立した。法相宗に属する寺院としては興福寺,薬師寺,清水寺などがある。
→唯識説
執筆者:横山 紘一
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…彼の学系は中観派といわれる。他方,唯識派(瑜伽行派)は,空の立場に立ちながらも,現実生存の根底にアーラヤ識ālayavijñānaという精神的原理を想定し,現実生存がこのように成立している理由を体系的に説明しようとした。またいっさいの衆生は如来となる可能性があるとする如来蔵思想が成立,仏教のベーダーンタ哲学への接近を示している。…
…大乗仏教の思想,教理を組織体系化した論師(ろんじ)たちには,大きく二つの流れがあった。竜樹を祖とする〈中観(ちゆうがん)派〉と弥勒(みろく)を祖とする〈唯識(ゆいしき)派〉とである。後者と深いかかわりをもち,おもに彼らによって継承された思想に,如来蔵説がある。…
…インド大乗仏教の論書。唯識派(ゆいしきは)の基本的な典籍。原題はサンスクリットで《ヨーガーチャーラブーミYogacārabhūmi》。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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