マリアの首(読み)マリアノクビ

デジタル大辞泉 「マリアの首」の意味・読み・例文・類語

マリアのくび【マリアの首】

田中千禾夫戯曲。4幕9場。副題「幻に長崎を想う曲」で、終戦後の長崎を舞台とする。昭和34年(1959)2月新人会初演同年、第6回岸田演劇賞、第10回芸術選奨受賞。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マリアの首」の意味・わかりやすい解説

マリアの首
まりあのくび

田中千禾夫(ちかお)の戯曲。副題「幻(まぼろし)に長崎を想(おも)う曲」。四幕九場。1959年(昭和34)2月、作者演出により新人会が初演。同年4月号の『新劇』に発表。原爆洗礼を浴びた作者の故郷長崎を舞台に、焼けただれた浦上(うらかみ)天主堂のマリア像の首を雪の降る日に人知れず運び出そうとするカトリック信者たちのドラマ。原爆症の夫を抱え、過去に自分を犯して短刀を預けて去った男への復讐(ふくしゅう)を想い続け、街角で自作の詩集を売る忍(しのぶ)。昼は病院の看護婦、夜は娼婦(しょうふ)として街角に立つケロイドの顔をもつ鹿(しか)。いまはやくざな生活を送り、忍と対面し、過去に犯した女と知りつつ死ぬ被爆者の次五郎(じごろう)。ほかにさまざまな人間が登場し、現実と幻想、散文と詩が自在に交錯するなかで、人間の原罪と神、戦争と平和、自由への欲求など、哲学的諸問題を深い人間愛から問いただそうとする作者代表作の一つ。岸田演劇賞、文部省芸術選奨などを受賞した。

[石澤秀二]

『『田中千禾夫戯曲全集I』(1960・白水社)』

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