新人会(読み)しんじんかい

精選版 日本国語大辞典 「新人会」の意味・読み・例文・類語

しんじん‐かい ‥クヮイ【新人会】

大正・昭和初期の東京帝国大学学生を中心とした社会主義思想運動団体。大正七年(一九一八吉野作造らの指導のもとに赤松克麿、宮崎龍介らが創立人類の解放と現代日本の合理的改造を綱領として普選運動労働運動などに積極的に参加。当時の学生運動に指導的役割を果たす。昭和四年(一九二九日本共産青年同盟に再組織された。

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デジタル大辞泉 「新人会」の意味・読み・例文・類語

しんじん‐かい〔‐クワイ〕【新人会】

東京帝国大学内の社会主義学生団体。大正7年(1918)赤松克麿あかまつかつまろらが吉野作造らの援助を得て結成。デモクラシー運動から無産者解放運動に転じ、昭和4年(1929)の解散まで学生運動の中核となった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「新人会」の意味・わかりやすい解説

新人会
しんじんかい

東京帝国大学の学生が中心となって結成した大正~昭和期の思想団体。1918年(大正7)12月5日、吉野作造(さくぞう)教授の下で普選研究会を行っていた赤松克麿(かつまろ)、宮崎竜介(りゅうすけ)らが中心となって、吉野と浪人会の立会演説会を契機にして結成。大正デモクラシーをリードした黎明会(れいめいかい)とは師弟関係にあるともいうべき新しい世代の集団で、「吾徒は世界の文化的大勢たる人類解放の新気運に協調し之(これ)が促進に努む」「吾徒は現代日本の正当なる改造運動に従ふ」との綱領を掲げた。会員は、当初、東京帝大生に限定せず、卒業生の麻生久(あそうひさし)、佐野学(まなぶ)や慶大生の野坂参三(さんぞう)、労働者の渡辺政之輔(まさのすけ)らも参加した。機関誌『デモクラシイ』(後継誌『先駆(せんく)』『同胞』『ナロオド』)を発行して、講演会、学生諸団体との連絡、中国・朝鮮の同志との交歓を行い、また、労働運動に接近して友愛会と協力し、各地に支部をも置くなどして広範な社会運動を展開した。しかし21年(大正10)11月、彼らを取り巻くこの時期の社会運動の多様な発展に伴い、思想的分化を生じ、東京帝大内の学内学生団体に改組、以後マルクス主義志向を強め、学生社会科学連合会(学連)で指導的地位を占めた。また、関東大震災に際し、救護活動を行い、東京帝大セツルメントの創立などに協力した。この間、会員の中から佐野、赤松、野坂、渡辺のほかに小岩井浄(こいわいきよし)、志賀義雄(しがよしお)が22年7月結成の日本共産党に参加したのをはじめ、会は多くの社会運動家を輩出させた。28年(昭和3)の三・一五事件で新旧の会員が検挙され、東京帝大当局は解散を発令したが、会は非合法的に存続し、翌29年11月22日の国際共産青年同盟10周年記念日に「新人会解体に関する声明書」を発表して解散した。他の新旧会員に嘉治隆一(かじりゅういち)、蝋山政道(ろうやままさみち)、河野密(こうのみつ)、風早八十二(かざはややそじ)、水野成夫(しげお)、大宅壮一(おおやそういち)、後藤寿夫(ひさお)(林房雄(ふさお))、岡田宗司(そうじ)、石堂清倫(いしどうきよとも)、中野重治(しげはる)らがおり、歴代会員は約350名を数える。治安維持法関係での被起訴者は前後100名を超え、のちに革新政党の指導者、国会議員、学者、作家となった者も多い。

[佐藤能丸]

『菊川忠雄著『学生社会運動史』(1931・中央公論社/増補改訂・1947・海口書店)』『石堂清倫・竪山利忠編『東京帝大新人会の記録』(1976・経済往来社)』『H・スミス著、松尾尊兌・森史子訳『新人会の研究』(1978・東京大学出版会)』『慶応義塾大学法学部政治学科中村勝範研究会編・刊『東京帝大新人会研究ノート』第1~6号(1979~83)』

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改訂新版 世界大百科事典 「新人会」の意味・わかりやすい解説

新人会 (しんじんかい)

東京帝国大学の学生を中心とする思想運動団体。1918年12月5日,吉野作造の弟子麻生久,赤松克麿,宮崎竜介らが新しい思想の伝達者,社会改造の担い手をめざして結成,翌19年2月には機関誌《デモクラシイ》を創刊した(1920年2月《先駆》,同年10月《同胞》と改題)。同月には東京亀戸の工場地帯に入り共産党指導者となる渡辺政之輔を中心とする分会を設立したのをはじめ,全国各地に支部を設けた。とくに全国の遊説オルグで各地の大学,高専での新思想による学生の組織化に力をつくし,22年11月の学生連合会結成の中心となって日本の学生運動を指導した。発足当初は吉野の民本主義論を奉じたが,20年代に入って思想界における社会主義の台頭に伴い,その重要な伝達者,実践者となった。

 社会主義運動内の新人会出身者の分布は,右派の赤松,宮崎,《社会思想》によって中間派理論を主唱した河野密,三輪寿壮,平貞蔵,共産党系の《マルクス主義》に論陣をはった志賀義雄,林房雄,村山藤四郎,水野成夫,浅野晃など多方面にわたる。そのほか,河村又介,蠟山政道,服部之総,住谷悦治など著名な学者や大宅壮一,中野重治などの文人等々各界のリーダーが輩出した。新人会は,1928年3月15日の共産党大検挙事件以後の政府の弾圧体制強化のなかで,文部省と大学当局によって解散を命じられたが,非合法活動をつづけ29年11月22日に解散した。
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百科事典マイペディア 「新人会」の意味・わかりやすい解説

新人会【しんじんかい】

大正中期〜昭和初期の東京帝大学生を中心とした思想運動団体。1918年吉野作造渡辺政之輔らの賛同を得て,赤松克麿や宮崎竜介らが結成。〈人類解放と現代日本の合理的改造〉を目的とし,当初は大正デモクラシーの一翼をになっていた。次第に労働運動に接近,全日本学生社会科学連合会の指導的組織となったが,1925年―1929年の弾圧で解体。河野密,三輪寿壮(じゅそう),志賀義夫,林房雄,水野成夫,河村又介,蝋山政道,服部之総,大宅壮一中野重治などを輩出した。
→関連項目学生運動亀井勝一郎建設者同盟

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「新人会」の意味・わかりやすい解説

新人会
しんじんかい

大正から昭和初期にかけての,東京帝国大学学生を中心とした思想運動団体。ロシア革命と米騒動に影響されて,1918年 12月吉野作造の指導のもとに,麻生久,渡辺政之輔,宮崎龍介らによって結成された。新人会は講演会,研究会を催して民主主義の宣伝に努め,19年3月~22年4月機関誌『デモクラシー』 (『先駆』『同胞』『ナロオド』と改名) を発行した。 20年 12月には社会運動の発展状況に対応して会を学内組織へと改組し,以後,学生社会科学連合会の指導的地位を占め,多くの社会運動家を輩出した。 28年三・一五事件直後大学当局から解散を命じられた。その後,会は非合法的に存続したが,29年「戦闘的解体」を宣言した。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「新人会」の解説

新人会
しんじんかい

東京帝国大学学生による学生運動団体。1918年(大正7)12月上旬,法科大学生の赤松克麿(かつまろ)・宮崎竜介・石渡春雄が吉野作造教授の後援で結成,卒業生の麻生久・佐野学・棚橋小虎,野坂参三(慶大)らも参加。翌年3月以降22年4月まで機関誌「デモクラシイ」「先駆」「同胞」「ナロオド」を刊行,以後労働運動の関係者を輩出。蝋山(ろうやま)政道・三輪寿壮(じゅそう)・河野密(みつ)ら卒業生の学究派は22年4月「社会思想」を創刊した。22年の学生連合会結成(24年に学生社会科学連合会と改称)後は全国的運動の中核となり,3・15事件の際の大学側の解散命令後は地下に潜行,翌年日本共産青年同盟への発展的解消を宣言して解散した。

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旺文社日本史事典 三訂版 「新人会」の解説

新人会
しんじんかい

大正末期〜昭和初年にかけて活動した学生団体
1918年,赤松克麿・宮崎竜介ら東京帝大生を中心に結成。吉野作造の指導をうけ,社会の合理的改造をめざし,雑誌『デモクラシー』を発刊。講演会・研究会を開き,普選運動・労働運動に参加,大正デモクラシーを推進した。その後社会主義運動へ接近し,'25年学連事件以後弾圧が続き,'29年解散。

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世界大百科事典(旧版)内の新人会の言及

【解放】より

…創刊号に〈宣言〉をかかげるなど,他の総合雑誌とは性格を異にし,労働問題,社会問題がとくに重視され,社会主義思想の影響を強く受けた。黎明会,新人会の会員が執筆したほか,荒畑寒村,堺利彦,山川均,山川菊栄などの社会主義者も毎号のように登場している。文芸欄には小川未明,宮地嘉六,金子洋文らが執筆,しだいに労働者作家,社会主義的作家の寄稿が増加したが,関東大震災のため23年9月終刊した。…

【学生運動】より

…なお,政治運動としての学生運動には反体制的運動だけではなく,これに対抗してつくられる親体制的運動もある。
【日本の学生運動】

[第2次大戦前]
 日本における学生運動の発端は1918年12月,東大新人会の誕生とされる。その背景には第1次大戦による国内資本主義の成長と半封建的生産関係の危機,世界的なデモクラシーの潮流とロシア革命の成功などの多様な要素から影響を受けて勢力を伸張した社会主義・共産主義思想の浸透があった。…

【学連事件】より

…1925‐26年に起こった最初の治安維持法適用の学生運動弾圧事件。1922年11月7日,ロシア革命5周年記念の日に東大新人会を中心に学生連合会が結成され,24年9月には学生社会科学連合会と改称した。学連は,25年7月,京大で第2回大会を開催し,会員はマルクス主義を指導精神とし無産階級運動の一翼としてその解放のために教育運動に従事するという主旨のテーゼを採択し,連合体を全国的集権組織にする規約改正,会員をマルクス=レーニン主義の立場で教育する教程作成などを決定した。…

※「新人会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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