フランスの劇作家・小説家マリボーの未完の長編小説。既刊第1~11部,1731-41年刊。幼くして両親をなくしたマリアンヌがパリに出て,好色な老人に誘惑されたり,その甥と恋をするなど,さまざまな運命にもてあそばれるようすが一人称体で語られる。17世紀のロマン・ブルジョア,心理小説,モラリストの文学,ロマン・ピカレスク(悪者小説)の伝統などを踏まえたうえに,恋愛喜劇の名手らしい女性心理の分析がふんだんに盛りこまれている。またジャーナリストの経験豊富なマリボーならではの現実観察も特色で,とりわけパリ庶民の生活風景を描いた点が高く評価されている。マリアンヌの純真さは腐敗した世相を浮彫にするという役割も果たしており,無垢(むく)な主人公を介した風俗描写と社会批判という,小説ジャンルの新しい表現手法がこの作品によって確立された。フランス文学におけるリアリズム小説の先駆といわれるゆえんである。
執筆者:鷲見 洋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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