日本大百科全書(ニッポニカ) 「デュアメル」の意味・わかりやすい解説
デュアメル
でゅあめる
Georges Duhamel
(1884―1966)
フランスの小説家。パリ生まれ。初め医学を志し、医科大学を卒業、医学博士の称号を得た。以前から文学にも興味を抱き、1906年にビルドラック、ジュール・ロマンなどとともにクレテイユの僧院に立てこもって、アベイ派と称する印刷所をもった文学運動をおこし、最初の詩集を出版したが、08年に解散した。14年第一次世界大戦勃発(ぼっぱつ)で軍医として従軍、戦争の悲惨と機械文明に対する痛烈な批判に満ちた『殉難者の生涯』(1917)と『文明』(1918。ゴンクール賞)とを生んだ。
1920年から32年にかけては、『サラバンの生涯と冒険』5巻(1920~32)を完結、平凡な一市民の物語を展開した。また旧ソ連とアメリカに旅行し、『モスクワ紀行』(1927)および『未来生活風景』(1930)を書き、二大国の文明を批判している。30年代に入ってからは、ファシズムの台頭に抵抗し、国際知的協力委員会の会合に出席し、活動を行った。35年にはアカデミーの会員に選ばれた。33年から45年にかけて彼は『パスキエ家の記録』10巻を発表したが、これはパリのある小市民の家庭の歴史的な変遷を描きながら、その家庭に生まれたローラン・パスキエが生物学者として活躍する物語であり、デュアメルのあくまで楽天的・肯定的なヒューマニズムを小説のなかに具象化したものといえよう。
第二次大戦、ドイツ軍のパリ占領中はパリにとどまり、祖国の喪に服して沈黙を守った。同時にアラゴンなどの急進思想家と対決しての苦悶(くもん)を表明した小説『パトリス・ペリヨの遍歴』(1950)を書いた。明晰(めいせき)な観察者、中庸を外れないヒューマニストとして高く評価されている。
[土居寛之]
『木村太郎訳『殉職者』(1950・創元社)』▽『松尾邦之助訳『文明について』(1953・読売新聞社)』▽『長谷川四郎訳『パスキエ家の記録』20冊(1950~52・みすず書房)』▽『渡辺一夫訳『パトリス・ペリヨの遍歴』(1952・岩波書店)』