ルルーシュ(読み)るるーしゅ(その他表記)Claude Lelouch

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルルーシュ」の意味・わかりやすい解説

ルルーシュ
るるーしゅ
Claude Lelouch
(1937― )

フランス映画監督パリ生まれ。バカロレア(大学入学資格試験)に落第した後、父親から16ミリのカメラを買い与えられ、自主映画を撮り始める。初めはドキュメンタリー作家を目ざし、テレビ映画製作技術者を養成する「ラジオ-テレビ研究センター」に通い、モスクワで撮影した『カーテンが上がるとき』(1957)がカナダのテレビ局の主催したコンクールに入賞。1957年から1960年にかけての兵役中には数本の軍用短編映画を撮る。1960年に映画プロダクション会社レ・フィルム13を設立。長編3作目の『男と女』(1966)が国際的にヒット、アカデミー作品賞ならびに脚本賞、カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し、一躍フランスを代表する監督となる。同作は、以後ルルーシュ作品の常連となるフランシス・レイFrancis Lai(1932―2018)の音楽を伴って、スクリプト・ガール(アヌーク・エーメAnouk Aimée、1932―2024)とカー・レーサー(ジャン・ルイ・トランティニヤンJean-Louis Trintignant、1930―2022)のやもめ同士の恋を描き、1960年代後半のもっとも人気の高い恋愛映画の一つとなった。以後、『パリのめぐり逢い』(1967)などの恋愛もの、『流れ者』(1970)などの犯罪ドラマ、グルノーブル冬季オリンピックを題材にした『白い恋人たち グルノーブルの13日』(1968)などのドキュメンタリー、『愛と哀しみのボレロ』(1981)といった歴史ものまで、広いジャンルにわたって人気の高い作品を発表し続ける。

 ルルーシュ映画の特徴はまず、絵筆で描いたようにやわらかく流れるカメラ・ワークにある。技術の革新によって軽量化したカメラを自由に移動させ、しばしば自ら撮影にあたって画面構成の自然さを追求した。即興性を取り入れた俳優の演技の自然な演出が、ルルーシュ映画のもう一つの特徴であり魅力となっている。しかし内容的にはしばしば紋切り型センチメンタリズムに陥ると批判され、そのため批評家の評価は興行的成功のレベルには至らなかった。

 『恋人たちのメロディー』(1971)、『冒険また冒険』(1972)、『男と女の詩(うた)』(1973)など1970年代初めの作品は、1968年の五月革命以後の自由な空気や、「アメリカ式」消費社会の発展など時代の特徴をよく映し出し、ルルーシュ映画のなかでもっとも高い評価を得ている。1967年には、アラン・レネ、クリス・マルケルChris Marker(1921―2012)、ジャン・リュック・ゴダール、アニエス・バルダ、ヨリス・イベンス、ウィリアム・クラインなどの監督とともに、ベトナム以外の各地で行われた反ベトナム戦争デモを描いたオムニバス形式のドキュメンタリー映画『ベトナムから遠く離れて』(フランスを中心とした映画人がアメリカの侵略と闘うベトナム人民への連帯を表明した共同作品)、2002年には、今村昌平(いまむらしょうへい)、ケン・ローチ、ショーン・ペンなど各国11人の監督が、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを受けて、それぞれ異なる時代、異なる場所での「9月11日」をオムニバス形式で描いた『11' 09'' 01 セプテンバー11』に監督の一人として参加している。

[芳野まい]

資料 監督作品一覧

カーテンが上がるとき Quand le rideau se lève(1957)
女を引き裂く La Femme Spectacle(1964)
行きずりの二人 L' amour avec des si(1964)
女と拳銃 Une fille et des fusils(1965)
男と女 Un homme et une femme(1966)
ベトナムから遠く離れて~「フラッシュバック」 Loin du Vietnam - Flash Back(1967)
パリのめぐり逢い Vivre pour vivre(1967)
白い恋人たち グルノーブルの13日 13 jours en France(1968)
愛と死と La vie, l'amour, la mort(1969)
あの愛をふたたび Un homme qui me plaît(1969)
流れ者 Le voyou(1970)
恋人たちのメロディー Smic Smac Smoc(1971)
冒険また冒険 L'aventure, c'est l'aventur(1972)
男と女の詩 La bonne année(1973)
時よとまれ 君は美しい ミュンヘンの17日~「敗者たち」 Visions of Eight - The Losers(1973)
マイ・ラブ Toute une vie(1974)
マリアージュ Mariage(1974)
“猫”警部事件簿 Le chat et la souris(1975)
ランデヴー C'était un rendez-vous(1976)
レジスタンス 反逆 Le bon et les méchants(1976)
愛よもう一度 Si c'était à refaire(1976)
続・男と女 Un autre homme, une autre chanc(1977)
2人のロベール 花嫁募集中 Robert et Robert(1978)
夢追い À nous deux(1979)
愛と哀しみのボレロ Les uns et les autres(1981)
恋に生きた女ピアフ Édith et Marcel(1983)
ヴィバラビィ Viva la vie!(1984)
遠い日の家族 Partir, revenir(1985)
アテンション・バンディッツ Attention bandits!(1986)
男と女Ⅱ Un homme et une femme, 20 ans déjà(1986)
ライオンと呼ばれた男 Itinéraire d'un enfant gâté(1988)
夏の月夜は御用心 Il y a des jours... et des lunes(1990)
レ・ミゼラブル Les misérables(1995)
男と女、嘘つきな関係 Hommes, femmes, mode d'emploi(1996)
しあわせ Hasards ou coïncidences(1998)
11’09’’01 セプテンバー11~「フランス編」 11'09''01 - September 11 - France(2002)
男と女 アナザー・ストーリー And Now... Ladies and Gentlemen...(2002)
それぞれのシネマ~「街角の映画館」 Chacun son cinéma - Cinéma de Boulevard(2007)

『Olympia AlbertiLelouch Passion(1987, Albin Michel, Paris)』『Claude Lelouch; Itinéraire d'un enfant très gâté(2000, Robert Laffont, Paris)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルルーシュ」の意味・わかりやすい解説

ルルーシュ
Lelouch, Claude

[生]1937.10.30. パリ
フランスの映画監督。芳醇な印象の映像を特徴とし,1966年に発表した傑作『男と女』Un Homme et une femmeでカンヌ国際映画祭のパルムドールを共同受賞,アカデミー賞の脚本賞と外国語映画賞を受賞した。3世代にわたりアルジェリアに暮らすユダヤ人実業家の子に生まれた。13歳のときにカンヌ国際映画祭のアマチュア部門で "Le Mal du siècle"が賞をとったが,映画の職についたのは1956年だった。1957~60年に兵役につく前はテレビのコマーシャルを制作していた。兵役を終えると,親族の援助を得て長編映画の第一作 "Le Propre de l'homme"(1960)に取り組み制作・脚本・主演をこなしたが失敗に終わった。映画監督として名声を得てからの作品は,『パリのめぐり逢い』Vivre pour vivre(1967),『マイ・ラブ』Toute une vie(1974),『マリアージュ』Mariage(1974),『2人のロベール/花嫁募集中』Robert et Robert(1978),『夢追い』A nous deux(1979),『愛と哀しみのボレロ』Les uns et les autres(1981)など。

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百科事典マイペディア 「ルルーシュ」の意味・わかりやすい解説

ルルーシュ

フランスの映画監督。パリ生れ。監督第3作《男と女》(1966年)がカンヌ映画祭グラン・プリを受賞。フランシス・レイなどのボサノバ調の音楽,モノクロームとセピアを織り混ぜた映像による,洒落た感覚の作品で人気を得た。他の作品に第10回冬季オリンピックを記録した《白い恋人たち》(1968年),G.ミラー,E.ピアフ,H.v.カラヤン,R.ヌレーエフらをモデルとした《愛と哀しみのボレロ》(1981年,振付M.ベジャール)がある。

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