モラリスト(読み)もらりすと(英語表記)moraliste

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モラリスト」の意味・わかりやすい解説

モラリスト
もらりすと
moraliste

モラリストというのはフランス文学だけが使う、ある作家たちの傾向総称で、この語は17世紀から使い始められた。その当時この語は、「現実人間とか、社会などをあるがままに観察して、人間性とか風俗習慣などについてさまざまな考察を加えて、これを圧縮された、鋭利な文章にまとめ上げていく作家たち」に対して適用され、16世紀のモンテーニュ、17世紀のパスカルラ・ロシュフコーラ・ブリュイエールなどが、この範疇(はんちゅう)に属するものとされた。そしてその後さらにフランス文学は18世紀にはボーブナルグ、シャンフォール、19世紀にはジューベールJoseph Joubert(1754―1824)などのモラリストを生んでいる。

 しかし以上の分類は狭義のモラリストであり、今日ではさらに拡大して解釈され、フランス文学のなかで、とくに人間研究や心理探究に強い関心を示した批評家や小説家にまでも適用され、しばしば18世紀のモンテスキュー、19世紀のサント・ブーブ、メーヌ・ド・ビランMaine de Biran(1766―1824)、20世紀のジッドバレリーアランカミュなどまでも、モラリスト的な作家であるとか、モラリストであるといわれる。したがって、もっともモラリストから遠い作家ということを考えるときには、ロマン派の作家や、叙情詩人などの名が浮かんでくるのである。

 それでは狭義のモラリストたちは、どのような形で彼らの思想を発表したかというと、彼らは一般に小説とか詩のような形をとらないで、随想箴言(しんげん)、格言省察肖像(性格描写)などの形で表現している。たとえばパスカルのなかには次のようなことばがある。「われわれの悲惨を慰めてくれる唯一のものは、気晴らしである。とはいえ、それこそ、われわれの悲惨のうちでの最大の悲惨である。なぜなら、われわれに自己自身のことを考えないようにさせ、われわれを知らず知らずのうちに滅びに至らせるものは、主としてそれであるからである」。またラ・ロシュフコーは、「美徳は、川が海の中に消え去るように、利害打算の中に消え去る」といっている。

[土居寛之]

『ストロウスキー著、森有正・土居寛之訳『フランスの智慧』(1951・岩波書店)』『大塚幸男著『フランスのモラリストたち』(1967・白水社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モラリスト」の意味・わかりやすい解説

モラリスト
moraliste

モラルの問題にもっぱら関心を寄せる文筆家。広い意味では道徳哲学者や教化の理念を含んだ文学者をもさすが,一般にはフランスの特定の文人の系譜をいう。「モラル」 moraleとは「習俗」 mœursに由来し,元来道徳というより人間の日常的なあり方をいう。モラリストの関心もそこにあり,それを観察し,日頃人の気づかない欠点や笑うべき所業,慣習などを浮彫りにして,それを矯正しようとする (「人性研究家」と訳されることがある) 。モンテーニュをはじめ,パスカル,ラ・ロシュフーコー,ラ・ブリュイエール,ボーブナルグらがその代表者で,現代ではアミエル,アラン,モーロアらをあげることができる。古代ではテオフラストス,プルタルコス,キケロ,セネカ,エピクテトス,マルクス・アウレリウスにモラリストの先行形態が見出され,フランス以外ではアディソン,ゴールドスミス,スターンらのイギリスのエッセイストをモラリストということができる。

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