改訂新版 世界大百科事典 「メツラー」の意味・わかりやすい解説
メツラー
Lloyd Appleton Metzler
生没年:1913-80
アメリカの経済学者。カンザス州に生まれる。カンザス大学を経てハーバード大学に学ぶ。1942年以降しばらく政府機関に勤めたあと,46年イェール大学助教授,47年シカゴ大学準教授を経て49年同大学教授に就任。1940年代から50年代初めにかけて,一般均衡,国際貿易,雇用,貨幣・利子,景気循環など,経済学の広い分野にわたって,つぎつぎと独創的な理論的研究を発表,P.A.サムエルソンと並んで世界の学界をリードし,〈理論家中の理論家〉と称された。ただ不幸にも,50年代初め脳腫瘍に侵され,その後の活動は思うにまかせなかった。一般均衡理論の分野における多数財市場の安定条件の導出,貨幣・利子理論の分野における古典派理論とケインズ理論の位置づけの試みなど,すぐれた業績は多々あるが,彼の貢献でいちばんよく記憶されているのは,国際貿易の分野である。第1に彼は,開放経済下の過少雇用均衡の安定条件を厳密に導出し,それをもとにして一国の景気変動の国際的波及の過程を明らかにした。第2に,関税の賦課によって輸入品の国内価格が上昇しないで,逆に下落することがあることを示した(メツラーの逆説)。第3に,ロールセンSvend Laursenとの共同論文で,それまでの通説と違って,変動為替相場制は,雇用隔離効果employment insulation effect,すなわち外国の景気変動が国内に波及するのを阻止する働きをもたないことを示した(ロールセン=メツラー効果)。
執筆者:渡辺 太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報