ユーモアと笑い

ことわざを知る辞典 「ユーモアと笑い」の解説

ユーモアと笑い

ことわざには、真実を示すもの、あるいは教訓というイメージが色濃くつきまとっています。もちろん、ことわざにそうした側面があるのはたしかでしょう。「人の口に戸は立てられない」のも「後悔先に立たず」もともに真実を指摘したものといえ、そこから教訓を引き出すことも容易にできます。

■とはいえ、ことわざには、真実や教訓という狭い枠のなかにとどまらないものが少なからずあります。

 たとえば、こんなものがあります。

  あばたもえくぼ

  坊主憎けりゃ袈裟まで憎い

  月とすっぽん

 これらがことわざであることに異論はないでしょう。しかし、これがただちに真実や教訓と結びつくとはとても思われません。「あばた~」も「坊主~」も、客観的真実を述べるというより、むしろ意図的に虚構を導入し、比喩誇張することによって、恋をする人間心理の一面を鋭くとらえたもので、教訓にはほど遠いものです。誇張の結果は一種カリカチュア戯画)となり、かなり辛辣な批評になるとともに、ユーモアも感じられます。「月とすっぽん」は、清らかで美しいものと俗悪なものの対比ですが、これも相当な誇張表現で、「すっぽん」には滑稽な響きがあります。総じて、これらのユニークな表現には、庶民のエネルギーがあふれ、ユーモアと笑いがあって、ことわざの世界を奥深く、豊かなものにしているといえるでしょう。

■さて、ユーモアと笑いもことわざの特徴の一つと考えて見直すと、次のようなものがいくらでも出てきます。

 犬が西向きゃ尾は東――当たり前すぎて、ナンセンス漫画に通じます。

 骨折り損のくたびれもうけ――いまふうにいえば自虐ネタですが、「損」と「儲け」で対句にしたところは文芸的です。

 じんこうかずもひらず――高級なお香の後にいきなり屁が出てくるおかしさ。

 しわん坊の柿の種――とっておいてもしょうがない柿の種まで惜しむわけで、じわっと笑いが込み上げます。

 っても黒豆――「これは虫だよ」「いや黒豆だ」と二人で言い争って、這い出しても「黒豆だ」と頑張る頑固者。まるで四コマ漫画ですね。

■ことわざのユーモアは、大笑いするというより、くすりと笑う、隠し味のようなおかしみが多いようです。

出典 ことわざを知る辞典ことわざを知る辞典について 情報

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