大と小、赤と緑、喜びと悲しみなどのように反対の性質のもの、あるいは甚だしく量や性質が異なるものが、相並んで生起する場合、その差異が強調されて現れる現象をいう。この現象は二つのものが空間的に隣接して現れる場合にも、また時間的に前後して現れる場合にも認められ、隣接する刺激によって生じる現象を同時対比simultaneous contrast、時間的に先行する刺激によって生じる現象を継時対比successive contrastという。対比は心的経験のさまざまな方面、すなわち知覚、感情や情動経験、記憶などにおいて広くみいだされるが、知覚に関するものがとくに顕著であり、なかでも視覚に関するものがよく知られている。
視覚に関する対比現象のうち多く研究されているのは、色と明るさについてである。赤色と緑色とのように補色またはこれに近い関係にある色を並べると、互いに他方の色調、飽和度(あざやかさ)を強め合う。これを色対比color contrastまたはchromatic contrastという。この現象は一方が無彩色の場合にも現れ、この場合灰色は淡く隣の色の補色を帯びて見える。色対比は同時対比のほか継時対比としてもよく現れ、いずれの場合もほぼ補色が誘導されるが、この対比補色は混色補色と一致しない。無彩色間では、明るさのかなり異なる二つの灰色の間に対比がおこる。すなわち、黒色に隣接する灰色は白っぽく、白色に隣接する灰色は黒っぽく見える。これを明るさの対比brightness contrastという。このほか、対象の大きさの知覚においても対比が現れ、対比錯視contrast illusionとして知られている。これは、小さな図形または大きな図形が隣接することによって、過大視または過小視を生ずるというものである。
視覚のほかには、味覚や嗅覚(きゅうかく)などの対比がよく知られ、日常的にも利用されている。「汁粉に塩」のように、塩の味をほんの少し加えることによって甘味が引き立つというのは味覚の対比を利用した例であるし、香水をつくる場合、微量の悪臭物質を添加することによって芳香を強めるというのは嗅覚の対比を利用した例である。
[西本武彦]
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…身体を動かさない限り,着衣の感覚が失われるのはこの性質による。このほか,感覚にみられる特殊な現象に対比contrastといわれる現象がある。例えば一定の明るさの灰白色の小さい紙面の感覚的明るさは,その紙を黒い大きな紙の上に置くときより明るく(白く)見えるし,もっと白い紙の上に置くときは暗く見える。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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