リウマチ性疾患の薬物療法

内科学 第10版 の解説

リウマチ性疾患の薬物療法(リウマチ性疾患総論)

 リウマチ性疾患のほとんどは現在でも原因不明だが,異常な免疫反応の亢進や過剰な炎症反応が認められる.そのため,治療の原則は免疫反応や炎症反応,さらに炎症に伴う疼痛を抑制することにある.以下では,その目的のために臨床で使われている薬物群について解説する.
(1)副腎皮質ステロイド
(ステロイド)
 ステロイドは1948年にはじめて関節リウマチrheumatoid arthritis:RA)患者に使われたが,その強力な抗炎症作用および免疫抑制作用により,現在まで多くのリウマチ性疾患に使われている.
a.作用機序
 経口または注射で投与されたステロイドは血中を運ばれ,拡散により細胞内に入って細胞質内の受容体に結合する.受容体は2分子の90 kDa熱ショック蛋白と結合しているが,ステロイドが結合することによりこれらが解離し,活性化される.次にステロイド-受容体複合体は核内に移行し,2分子の重合体として特定の結合部位をもったDNAに結合し,転写調節因子として特定の遺伝子発現を調節する.結果として,炎症または免疫反応を制御する多くの蛋白発現を増加または減少させる.この転写調節は,種々の共調節因子(コレギュレータ)による抑制または活性化の影響を受ける.また,転写調節を介さない作用機序も報告されている.
b.種類と特徴
 表10-1-9には臨床で全身投与に用いられるおもなステロイドを示した.これらは,力価の増強と副作用の分離を目標に開発されたが,前者は成功したものの,後者については受容体が異なる電解質作用のみ分離可能となった.基本となる各錠剤中の用量は,原則として健常成人の定常状態におけるコルチゾール1日分泌量に合わせたものであったが,長年約20 mg/日とされてきたコルチゾール1日分泌量は近年の研究で約10 mg/日であることが明らかとされた.
c.副作用と相互作用
 ステロイドの作用は多様だが,抗炎症および免疫抑制作用以外はすべて副作用となる.そればかりか,免疫抑制作用も一方では感染症の原因となる.生命予後にも関連する重症副作用としては,副腎不全・退薬症候群,感染症(日和見感染症含む)の誘発・増悪,骨粗鬆症とそれに伴う骨折・骨頭壊死・低身長,動脈硬化病変,糖尿病の誘発・増悪,消化性潰瘍,精神障害などである.これらを避ける最も有効な方法は,当然のことながらステロイドを投与しないことである.すなわち,対象患者がステロイド治療の適応疾患か否かを,治療を開始する前に十分に検討することが大切である.
 臨床的に特に問題となる相互作用は,リファンピシンや抗てんかん薬などとの併用である.これらの薬物は肝の薬物代謝酵素であるCYP3A4を強力に誘導するためステロイド代謝が亢進し,ステロイドの効果が著しく減弱する.
(2)免疫抑制薬
 免疫抑制薬は,新たな用法の開発やステロイドの減量・中止を補完する目的で,近年ではリウマチ性疾患により積極的に使われるようになった(表10-1-10).なお,これらの一部は後述の抗リウマチ薬に含まれる.
a.作用機序
 代謝拮抗薬は,細胞内の葉酸やプリン体などの代謝経路に作用して核酸合成を阻害する.アルキル化薬はDNAをアルキル化してDNAの複製を阻害する.その結果,ともにリンパ球の増殖を抑制し免疫抑制に作用する.一方カルシニューリン阻害薬は,リンパ球などの細胞内受容体に結合し,カルシニューリンを阻害することにより細胞内シグナル伝達を阻害して炎症性サイトカイン産生などの細胞機能を抑制する.
b.種類と特徴
 代謝拮抗薬とアルキル化薬は,作用機序から増殖の盛んな細胞の核酸合成(複製)を標的にしていることから,一部は抗癌薬としても使われている.アザチオプリンは歴史的な薬物だが,作用は弱い.シクロホスファミドは点滴静注による月1回高用量パルス療法が行われることが多い.メトトレキサートMTX)は葉酸拮抗作用を有する代表的な抗癌薬・免疫抑制薬だが,関節リウマチ(RA)などのリウマチ性疾患では低用量パルス療法が使われる.レフルノミドはRA,ミゾリビンとタクロリムスはRAおよび全身性エリテマトーデスを適応症として承認されている.
c.副作用と相互作用
 共通する副作用としては,免疫抑制作用による感染症の合併・増悪があり,代謝拮抗薬とアルキル化薬は作用機序から骨髄抑制に注意が必要である.シクロホスファミドでは出血性膀胱炎,性腺機能不全,悪性腫瘍などに注意する.一方,カルシニューリン阻害薬には骨髄抑制はみられないが,腎血管収縮作用による腎機能障害,高血圧,さらに高血糖などがある.カルシニューリン阻害薬は肝薬物代謝酵素のCYP3A4で代謝されることから,同酵素を阻害するほかの薬物と併用すると血中濃度が増加する.
(3)(疾患修飾性)抗リウマチ薬
 RAの疾患活動性を早期から十分に抑制し,寛解または可能な限りの低疾患活動性を目指すという治療概念に基づいて,さまざまなガイドラインまたはリコメンデーションが公表されている.抗リウマチ薬(表10-1-11)はその中心的な薬物であり,RA炎症を抑制するのみならず関節破壊・変形の進行を阻害することが期待されている.
a.作用機序
 免疫調節薬は抗炎症作用や免疫抑制作用はないがRA炎症に有効性がある薬物群である.これらはマクロファージ,TおよびB細胞などにさまざまに作用して過剰な免疫反応を調節するとされるが,詳細な作用機序は不明である.免疫抑制薬の作用機序は前述したが,細胞内のシグナル伝達に重要な分子であるJAK3の阻害薬が,新たな抗リウマチ薬として米国で承認された. リウマチ性疾患では異常な免疫反応により種々の炎症性サイトカインが過剰発現して病態形成に関与しているため,それらを標的とした生物学的製剤がRAで使用され,ほかのリウマチ性疾患の一部で試みられている.また,リンパ球などを標的とした製剤がある.
b.種類と特徴
 海外では抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンが免疫調節薬として使われているが,わが国では承認されていない.免疫調節薬の効果は一般に免疫抑制薬や生物学的製剤に比べて弱く,近年その処方量は減少している.MTXは生物学的製剤との併用の有用性もあり,標準薬としてRAに使用されている.用法は週1~2日のパルス療法であり,週5日間以上の休薬が骨髄抑制などの副作用を減ずるために必須である. 生物学的製剤の多くは腫瘍壊死因子(tumor nec­rosis factor:TNF)-α阻害薬だが,インターロイキンinterleukin:IL)-6阻害薬や抗原提示細胞とT細胞の相互作用を阻害する製剤がある.ほかにも,IL-1受容体アゴニストや,B細胞を標的とした悪性リンパ腫治療薬のリツキシマブが海外でRAに対して承認されている.現存のRA治療薬では,生物学的製剤とMTXの併用が最も強力である.
c.副作用と相互作用
 サラゾスルファピリジンは肝障害,無顆粒球症,重症の皮膚粘膜障害など,ブシラミンはネフローゼ症候群,間質性肺炎など,注射金製剤は腎障害や間質性肺炎など,ペニシラミンは血液障害,腎障害,自己免疫疾患の合併などが知られている.生物学的製剤はいずれも蛋白製剤であり,アナフィラキシーを含む投与時反応がある.低分子抗リウマチ薬と比較すると重症臓器障害の副作用は少ないが,ステロイドや免疫抑制薬以上に結核の再燃,ニューモシスチス肺炎,B型肝炎ウイルスの再活性化などの日和見感染を含めた感染症には注意が必要である. 抗リウマチ薬は相互に作用点が異なるため,抗リウマチ薬どうしの併用は原則的には可能だが,注射金製剤とペニシラミンの併用で副作用が増強するとされる.生物学的製剤とMTXの併用は推奨されているが,生物学的製剤どうしの併用は,有効性は変わらず感染症が増加するため禁忌である.
(4)鎮痛薬
 主として関節炎・関節痛に対する対症療法薬としてさまざまな鎮痛薬が用いられる(表10-1-12).疼痛は一般に侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に分類され,関節炎は炎症の結果として生じる侵害受容性疼痛である.一方,線維筋痛症による筋痛は神経障害性疼痛や心因性疼痛の要素が強い.
a.作用機序
 アセトアミノフェン(AAP)は,非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の作用機序として知られるシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase:COX)阻害作用は弱く,中枢への直接作用により鎮痛作用を発揮するとされる.NSAIDsはCOX阻害によりプロスタグランジン産生を抑制する.選択的COX-2阻害薬は炎症部位で大量に発現するCOX-2を強く抑制するが,生体防御に働く構成的なCOX-1の抑制作用は弱い.オピオイドは神経系の特異的受容体に作用して強力な鎮痛作用を発揮する.神経障害性疼痛緩和薬であるプレガバリンは,神経系細胞において各種神経伝達物質の放出を抑制して鎮痛作用を発揮する.
b.種類と特徴
 AAPもNSAIDsもRA炎症を十分に抑制するほどの効果はない.しかし,現在でも便利な対症療法薬として利用されている.海外の変形性関節症のガイドラインでは,AAPまたはNSAIDs外用剤が第一選択薬である.NSAIDsには多くの種類があるが,本質的な相互の違いはない.選択的COX-2阻害薬も有効性では従来のNSAIDsと同等である.リウマチ性疾患の慢性疼痛には,依存性や耐性が麻薬性オピオイドよりも弱い非麻薬性オピオイドが使用されるが,神経障害性疼痛緩和薬が使われることがある.これらはいずれも対症療法薬であることから,漫然と使用しないことが大切である.
c.副作用と相互作用
 AAPの高用量投与はときに重篤な肝障害を引き起こすことがある.高用量のAAPとNSAIDs内用剤の併用により,消化管障害も増加する.また,AAPはNSAIDsよりはアスピリン喘息を誘発することは少ない.AAPは一般市販薬としても入手可能なため,思わぬ過量投与になることがある. NSAIDs内用剤の副作用は少なくないが,重症度と頻度の最も高いのが消化管潰瘍であり,次に注意すべきは腎障害である.坐薬は吸収効率が内用剤と同等以上のため,作用と副作用は内用剤とほとんど同様である.選択的COX-2阻害薬は胃十二指腸潰瘍の発症率を低下させ,消化管出血,穿孔および閉塞などの発症率もある程度低下させる.しかし,消化管潰瘍の危険因子である潰瘍の既往,高齢者,ステロイド併用などを有する例では,従来薬と同様にプロスタグランジン製剤やプロトンポンプ阻害薬などの併用が必要である.選択的COX-2阻害薬の登場で心血管系副作用が注目されたが,米国食品医薬品局は,その懸念がアスピリンを除くすべてのNSAIDsに同等に存在すると結論付けている.NSAIDs貼付剤は,ときに重篤な皮膚障害や日光皮膚炎を呈することがある.
 NSAIDsとエノキサシンなどのニューキノロン系抗菌薬との相互作用によりときに痙攣を惹起することがあり,高齢者では特に注意が必要である.複数のNSAIDsの併用は過量投与であり,効果は増さずに副作用の危険性は増すとされている. 非麻薬性オピオイドでは便秘,悪心・嘔吐,眠気などオピオイド特有の副作用に注意が必要である.神経障害性疼痛緩和薬にはめまい,眠気,浮腫,体重増加,種々の消化管症状などの副作用が少なくなく,いずれも低用量から漸増するが,一方で中止する場合も漸減する必要がある.[川合眞一]
■文献
川合眞一:ステロイド内服薬の使い方と留意点.日医雑誌,140: 2325-2329, 2012.
川合眞一:抗炎症薬・抗リウマチ薬.臨床薬理学 第3版(日本臨床薬理学会編),pp326-330,医学書院,東京,2011.
川合眞一:変形性関節症における疼痛管理の実際.東京内科医会誌,27: 93-98, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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