出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
骨粗鬆症とは、
骨折は骨粗鬆症の合併症で、骨折を予防するために骨量の維持ならびに増加を図ることが大切です。ただし、高齢者における骨折予防のためには、筋力の増強、関節可動域の確保といった運動能力の維持・増進や、転倒防止を念頭においた環境の整備も重要です。また、高齢者の場合は、すでに骨折を起こしていることも多く、その治療とケアも重要な課題です。
●骨粗鬆症のタイプ
骨粗鬆症は、大別して
原発性骨粗鬆症は、明らかな原因となる病気がなくて起こるもので、これは退行期骨粗鬆症と若年性骨粗鬆症に分けられます。そのうち圧倒的に多いのは、加齢に伴う骨量減少を背景とする前者の退行期骨粗鬆症です。退行期骨粗鬆症は、さらに
一方、続発性骨粗鬆症は、さまざまな病気や薬物などが原因となって起こるものです。主な原因としては、内分泌疾患(
●退行期骨粗鬆症の原因
骨は、常に新陳代謝を繰り返しています。古くもろくなった部分は壊されて(骨吸収)、その部分が新しく修復されています(骨形成)。
骨量、
退行期骨粗鬆症のメカニズムは、次のように考えられています。
骨量は、閉経後の数年間に最も減少速度が高まります。女性ホルモン(エストロゲン)には骨形成を促進し骨吸収を抑制する作用がありますが、閉経によって女性ホルモンが欠乏すると、骨の代謝回転が亢進し(高回転型)、骨吸収が骨形成を上回って急速に骨量が減少します。これが閉経後骨粗鬆症です。
このような閉経による変化は、60~65歳以降には一般的には落ち着き、次第に老化に伴って骨の代謝回転が低下していきます(低回転型)。すると今度は、骨形成の低下が骨吸収の低下を上回り、ゆっくりと骨量が減少していきます。これが加齢に伴う骨粗鬆症で、女性だけでなく男性にも起こります。
そのほか、高齢者の場合は、カルシウム摂取量や腸管からの吸収低下、ならびに体内ビタミンD量の低下などが、二次性の副甲状腺機能亢進状態をもたらし、その結果、骨量の減少がもたらされることなどが考えられています。
骨粗鬆症の診断は、骨量の評価と鑑別診断の2つの柱からなります。
骨量の評価は、
現在、日本骨代謝学会による診断基準2000年版が利用されています。現時点では、年齢別の診断基準は設定されていませんが、骨粗鬆症の薬物療法を検討する場合は骨量の低下以外の骨折危険因子も考慮して行います。
骨粗鬆症の治療は、食事療法、運動療法、薬物療法からなります。加えて高齢者の骨折予防のためには、前述したように骨自体の強度のみならず、運動能力の維持・増進や転倒防止を念頭においた環境の整備も必要になります。
近年、骨代謝マーカー(骨形成や骨吸収の状態を反映する物質)の検査が実用化されています。この検査をすると、骨代謝状態の把握、治療薬の選択、治療効果の評価に役立ちます。
現在、日本では8種類の治療薬が使用可能です。治療薬の選択にあたっては、個人ごとの骨代謝の多様性を考え、加えてそれぞれの薬の特徴をいかした処方を行います。原則的には単剤を使用し、効果があって有害な事象がないかぎり、できるだけ長く同じ薬を使用します。
骨粗鬆症の薬物療法の目的は骨折の予防ですが、それぞれの薬剤の特徴や有効性について、「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版」にまとめられています。このガイドラインはこれからも改訂されていく予定です。
現在主流となっている薬剤は、骨吸収(古い骨が溶かされること)を抑える作用をもつもので、ビスホスフォネート製剤と選択的エストロゲン受容体作動薬(SERM)です。これらの薬剤は、骨量増加作用とともに骨折発生抑制効果が証明されています。
活性型ビタミンD3製剤やビタミンK2製剤にも骨折抑制効果が認められています。高齢者ではビタミンDやビタミンKが不足しないように栄養指導を行うことも必要ですが、活性型ビタミンD3製剤やビタミンK2製剤も単独であるいはビスホスフォネートに併用して使うことを検討します。ただし、ビタミンK2製剤はワルファリンという血液凝固阻害薬を服用している人には使えません。
骨粗鬆症の症状のひとつとして腰背痛があります。腰背痛はさまざまな病気によって現れるため、鑑別診断が重要です。骨粗鬆症による腰背痛の治療には、安静や湿布による局所療法のほかに、カルシトニン製剤による治療(筋肉注射)を行います。
骨粗鬆症に対する治療効果は、DXAによる骨量測定、
また、転倒しても大腿骨近位部骨折に結びつかないように、大転子部(大腿骨の外側の出っ張り部分)を硬質ポリウレタンなどでおおう「ヒッププロテクター」という装具が市販されています。これは現在のところ保険の適用外で、使い勝手を向上させる工夫など未解決な課題もありますが、活用を検討したい装具のひとつです。使いたい場合は医師に相談し、指導を受けるようにしてください。
細井 孝之
骨量の減少と骨組織の微細構造の異常の結果、骨に
高齢社会を迎え、骨粗鬆症の患者さんは年々増加の一途をたどり、約1000万人を突破しているといわれています。以前は単なる加齢現象ととらえられていましたが、骨粗鬆症は骨の病的な状態と考えるべきです。
合併症として、
基礎疾患の有無により、①原発性骨粗鬆症と②続発性骨粗鬆症に分類されます。
原発性骨粗鬆症のうち、主として閉経後の女性にみられる閉経後骨粗鬆症と、65歳以上の高齢者にみられる老人性骨粗鬆症があり、これらが全体の約90%を占めています。
一方、続発性骨粗鬆症の原因としては、内分泌疾患、代謝性疾患、炎症性疾患、先天性疾患、薬物性などがありますが、ステロイド投与による骨粗鬆症に注意すべきです。
通常、骨量の低下のみでは症状が出現することはありません。骨折に伴って疼痛や変形が出現します。
原発性骨粗鬆症では、股関節の骨折(大腿骨頸部骨折)、手首の骨折(
脊椎椎体圧迫骨折では、
問診では、痛みの部位、程度、外傷の
血液・尿検査では、骨粗鬆症に特異的な検査所見はありませんが、二次性骨粗鬆症や他の疾患との鑑別のために必要です。また、尿中の骨吸収マーカーの検査は、骨粗鬆症の診断や治療の効果判定に有効です。
骨密度を測定し、日本骨代謝学会の原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度版)に基づいて診断します。これによると若年成人(20~44歳)平均値(YAM)の70%未満が骨粗鬆症、70~80%を骨量減少、80%以上を正常としています。
脆弱性骨折(外傷歴のない骨粗鬆症に関連した骨折)の有無の確認のため、疼痛のある部分の単純X線写真も撮影します(図65)。
食事、運動や日光浴を含めた①日常生活指導、②薬物療法が主な治療法です。
生活指導としては、乳製品を中心としたバランスのよい食事を摂取すること、日光
薬物療法としては、ビスホスフォネート製剤、塩酸ラロキシフェン(SERM)、カルシトニン製剤、ビタミンK製剤、ビタミンD製剤などがあります。日本骨粗鬆症学会の骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン(2006年版)では、総合評価で強くすすめられている薬剤は、ビスホスフォネート系ではアレンドロン酸(商品名フォサマック、ボナロン)、リセドロン酸(ベネット、アクトネル)、およびSERM(エビスタ)です。
その他、腸管からのカルシウム吸収の低下がある場合にはビタミンDも併用されます。また、脊椎圧迫骨折などによる腰背部痛がある場合には、カルシトニン製剤(エルシトニン)の注射も有効とされています。
骨折を生じた場合、大腿骨頸部骨折では、原則として手術療法が選択されます。また、
近年では、健康診断に骨密度測定が行われている場合もありますが、閉経後の女性は骨密度測定、あるいは血液や尿の骨吸収マーカーの測定を受けることがすすめられます。
また、日本骨粗鬆症学会から「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン(2006年版)」が出ていますので、参照するとよいでしょう。
朝妻 孝仁
骨粗鬆症とは
骨は骨吸収と骨形成を繰り返し、絶えず一定の割合で新しい骨に置き換えられています。この吸収と形成のバランスが少しでも崩れて骨吸収が優位になると、長い間に骨量は低下し、病的な骨折を起こしやすくなります。このように骨量が低下し、骨の質が悪くなって骨折を起こしやすくなった状態が骨粗鬆症です。
骨粗鬆症の原因
骨粗鬆症にはさまざまな要因があります。骨粗鬆症になりやすい主な危険因子としては加齢、カルシウム摂取不足、運動不足、やせ、喫煙、過度の飲酒などがあります。
明らかな基礎疾患がないものを原発性骨粗鬆症と呼びますが、これには女性ホルモン(エストロゲン)の低下によって起こる閉経後骨粗鬆症と、加齢に伴って起こる老人性骨粗鬆症とがあります。
一方、何らかの基礎疾患が原因で起こるものを続発性骨粗鬆症と呼びます。続発性の原因には、さまざまな内分泌疾患やステロイド治療、胃切除後などがありますが、
同じような病態は、閉経後や甲状腺機能亢進症による骨粗鬆症の場合にもみられ、
骨粗鬆症の診断
骨粗鬆症は、骨量の低下の程度と病的な骨折の有無により診断されます。骨量を調べるには、DXA法と呼ばれる方法が最も簡便で信頼できます。最近では、上腕で測定する簡易型の測定器が普及しており、健康診断などにも用いられています。
骨折を調べるにはX線写真をとる必要があります。通常、骨折の頻度が高く、無症状で起こることも多い
骨粗鬆症の治療
現在用いられている骨粗鬆症治療薬のうち、最も確かに有効性が得られるのはビスフォスフォネートという骨吸収抑制薬で、アレンドロネート(フォサマック、ボナロン)、リセドロネート(ベネット、アクトネル)、などがあります。また閉経後の女性にはラロキシフェン(エビスタ)も有効です。そのほか、活性型ビタミンDやビタミンKなどが骨粗鬆症治療薬として用いられます。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
骨が粗になることをいうが,骨の化学的組成には異常がなく,単位容積当りの骨質量が減少した状態で,骨全体から骨髄腔などの孔を除いた骨の絶対量の減少といってもよい。骨軟化症は骨組織へのカルシウムの沈着障害であり,骨の絶対量は同じでも類骨(まだ石灰化していない骨基質)の割合が骨に比べて多いもので,骨粗鬆症とは基本的に違う。海綿骨では骨梁の数と幅の減少が生じ,皮質骨(緻密骨)ではその幅が狭くなるとともに海綿化が起こり,骨は粗になる。
骨粗鬆症は特定の一疾患をいうのではなくて,各種の原因による骨質の病的減少の総称である。つまり,(1)老人性および閉経後骨粗鬆症,(2)内分泌性骨粗鬆症(末端肥大症,甲状腺機能亢進症などに生ずるもの),(3)先天性骨粗鬆症(骨形成不全症など),(4)不働性または外傷性骨粗鬆症(動かさぬことによる骨代謝異常によるもの)などを含んでいる。社会の高齢化により老人性骨粗鬆症は増加している。50歳以後の婦人に多く,背中や腰の痛みが主症状である。痛みは脊椎の細くなった骨梁の微小骨折が主原因とされるが,椎体がつぶれる圧迫骨折が生ずると動けないような激痛となる。しかし骨修復能は温存されているので,安静にしていれば骨折部は癒合して再び動けるようになる。圧迫骨折が多数の椎体に生ずると老人性円背,いわゆる腰の曲がった老人となる。現代は食事が良くなりカルシウム摂取量が増えたためか,腰の強く曲がった老人はあまりみられなくなった。
骨粗鬆症を防ぐためには,カルシウム含有の高い食物(牛乳,海草,小魚など)をとり,乳酸カルシウムなどを飲んでもよいが,またビタミンD3,タンパク質同化ホルモン,エストロゲン,カルシトニンなどの組合せによって,骨質の減少を防止しようとする方法も試みられている。腰痛には急性期に安静を保てば,しだいに日常動作が可能になる。一時的な軟性腰痛帯なども用いられるが,重い物を持ったり転んだりしないような日ごろの注意が必要である。
執筆者:山本 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
化学的に骨の成分の変化はないが、骨質全体が減少して組織的に骨皮質の幅が薄くなり、骨稜(こつりょう)も粗となった状態で、骨多孔症ともいう。骨折をおこしやすい。このような骨変化は、脊椎(せきつい)骨に著明に現れる。臨床的には内分泌異常による疾患にみられ、長期にわたって副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤の治療を受けた者、長期間の安静および栄養不良者などにも認められるが、もっとも多いのは中高年者にみられる骨粗鬆症である。閉経後に急に骨量が減少するため、女性に多い。
骨粗鬆症では、脊椎骨の椎体が上下のへこんだ魚椎様変化をきたし、また椎体の圧迫骨折をおこしやすく、骨折によって椎体は扁平(へんぺい)となる。このような脊椎骨の変形と背腰筋などの筋力低下によって老人性円背(えんぱい)(俗にいう猫背)となる。背腰部の重圧感、疲労感、背腰痛などを訴える。また老人に多い大腿骨(だいたいこつ)頸部(けいぶ)骨折は、骨粗鬆症があるための病的骨折とされる。治療としては、背腰痛が強いときは安静を保ち、鎮痛剤などを投与して疼痛(とうつう)の除去を図る。また離床時には、コルセットを装着して歩行させる。入浴や温熱療法も鎮痛に役だつ。薬剤としてはカルシウム剤、ビタミンD剤、エストロジェン(エストロゲン)、カルシトニン、ビタミンK2などが用いられる。ほかの生活習慣病(成人病)と同じように、若いうちから予防することがたいせつである。カルシウムを十分にとることが必要で、牛乳を毎日1合(約0.2リットル)は飲用することがよいとされている。また適度な運動と日光に当たることが必要である。早期診断のために、人間ドックにおける検診や集団検診が行われている。
[永井 隆]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
老化に伴い骨量が減少し,骨がもろくなる疾患.とくに閉経後の女性に多い.微視的にみると,骨は絶えず吸収(溶解)と形成(新生)を繰り返し,そのバランスのうえに強度が保たれているが,閉経によるホルモンバランスの崩れなどにより,骨の吸収にかかわる破骨細胞のはたらきが相対的に強くなりすぎることが原因と考えられる.日本では500万人,アメリカでは2000万人近い人がこの疾患に悩まされている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)生活習慣病用語辞典について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加