改訂新版 世界大百科事典 「リザーアッバーシー」の意味・わかりやすい解説
リザー・アッバーシー
Rizā `Abbāsī
生没年:1560ころ-1635
イランのサファビー朝期の画家。アッバース1世の宮廷工房を中心に活躍したイスファハーン画派の重鎮。作品の大半は線描画で,しかも多くは写本挿絵ではなく単葉の肖像画である。画風は初期の繊細な筆致と晩年のタッチの粗いスタイルに明らかに分けられる。後期の作品では描線に力がなく,顔貌は類型的に,動勢は緩慢になり,全体に退廃的な雰囲気が濃厚となる。彼特有の,明確で柔らかくリズミカルな描線は量感を盛りあげ,また,肥瘦のある線や,ターバン,帯などの末端の表現に使われている楔形の点描は,画面にわずかながら動勢を与える。主要な作品には《シャー・ナーメ》(1590年代。ダブリン,チェスター・ビッティ図書館),《牧人と家畜》(1624。サンクト・ペテルブルグのロシア国立図書館),《酒盃をもつ侍者》(17世紀初め。テヘラン装飾美術館)などがあるが,中には賛に年記はもとより,制作の動機や目的を書き記したものがある。
執筆者:杉村 棟
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報