ル・グイン(読み)るぐいん(英語表記)Ursula K. Le Guin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ル・グイン」の意味・わかりやすい解説

ル・グイン
るぐいん
Ursula K. Le Guin
(1929―2018)

アメリカの女性小説家。SFファンタジー作家として知られているが、文化人類学、精神分析、老荘思想、大陸先住民(アメリカ・インディアン)の伝統的価値など、幅広い知識と独自の文明観をもち、またフェミニズムエコロジーといった今日的問題にも関心をよせる本格派の小説家である。カリフォルニア州生まれ。ラドクリフコロンビア両大学卒。大学では、フランス中世・ルネサンス期の文学専攻した。父は著名な文化人類学者アルフレッド・クローバーである。「ハイニッシュ・ユニバース」と称する宇宙空間を舞台にした『ロカノンの世界』(1966)、『辺境惑星』(1966)、『幻影の都市』(1967)でその文学的才能を注目されたが、彼女の存在を決定的にしたのは、毎年SF小説最優秀作品に与えられるヒューゴー賞ネビュラ賞の両方を受けた『闇の左手』(1969)で、両性具有種族が住む惑星ゲセンを訪れた人間の眼を通して、性差にとらわれない人間のあり方を追求した。代表作とされ、現代SF小説の最高傑作の一つといわれる『所有せざる人々』(1974)でも、アナレスとユーラスという相反する惑星の世界、副題にもある「曖昧(あいまい)なユートピア」の調和による新しい文明の可能性を求めている。同時に、児童文学の傑作として知られるゲド戦記四部作『アースシー魔法使い』(1968、邦訳題『影との戦い』)、『こわれた腕環』(1971)、『さいはての島へ』(1972)、『帰還 ゲド戦記 最後の書』(1990)(いずれも邦訳題)を発表し、魔術に支配された多島海の世界(アースシー)を舞台に、少年ゲドがさまざまな冒険、試練を経て成長してゆく姿を寓話風に語った。ほかにSF長編『天のろくろ』(1977)、『始まりの場所』(1980)、評論集『夜の言葉』(1979、改訂版1989)、『世界の果てでダンス』(1989)、短編集『風の十二方位』(1975)、『内海の漁師』(1994)など多くの作品がある。

[渡辺利雄 2018年2月16日]

『小尾芙佐訳『始まりの場所』(1984・早川書房)』『山田和子訳『夜の言葉』(1992・岩波書店)』『篠目清美訳『世界の果てでダンス』(1997・白水社)』『清水真砂子訳『こわれた腕環』(1999・岩波書店)』『小尾芙佐訳『ロカノンの世界』(ハヤカワ文庫SF)』『青木由紀子訳『ロカノンの世界』(サンリオSF文庫)』『脇明子訳『辺境の惑星』(ハヤカワ文庫SF)』『山田和子訳『幻影の都市』(ハヤカワ文庫SF)』『小尾芙佐訳『闇の左手』(ハヤカワ文庫SF)』『佐藤高子訳『所有せざる人々』(ハヤカワ文庫SF)』『脇明子訳『天のろくろ』(サンリオSF文庫)』『小尾芙佐・佐藤高子訳『内海の漁師』(ハヤカワ文庫SF)』『ル・グイン著、村上春樹訳『帰ってきた空飛び猫』(講談社文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ル・グイン」の意味・わかりやすい解説

ル・グイン
Ursula Kroeber Le Guin
生没年:1929-

アメリカの女流SF作家。カリフォルニア州バークリー生れ。父は文化人類学者A.L.クローバー,母セオドーラTheodora Kroeberは作家で《イシ--北米最後の野生インディアン》の著者。ラドクリフ,コロンビアの両大学で,ルネサンス期のイタリア文学とフランス文学を専攻。処女作《ロカノンの世界》(1966)に始まり,《闇の左手》(1969)に代表される一連の宇宙年代記物,アースシーの魔法使いを主人公とするファンタジー《ゲド戦記》三部作(1968,71,72),ユートピア小説《所有せざる人々》(1974),歴史小説の枠組みを利用した《マラフレナ》(1979)など,活動領域は広い。光と闇,男と女,己と影などの2者間の対立とその克服を,主人公の流浪,探索,遍歴の旅のなかに織り上げる。
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百科事典マイペディア 「ル・グイン」の意味・わかりやすい解説

ル・グイン

米国の女性SF・ファンタジー作家。カリフォルニア州バークリー生れ。父は文化人類学者A.L.クローバー。性転換を題材にした《闇の左手》(1969年),重厚なユートピア小説《所有せざる人々》(1974年)などが代表作で,フェミニズム的観点と文学性に優れたSFを書いた。また児童向けファンタジー《ゲド戦記》3部作(1968年―1972年)のほか,《オルシニア国物語》(1976年),《マラフレニア》(1979年),《オールウェイズ・カミングホーム》(1985年)も評価が高い。近年はファンタジーを中心に執筆。他に評論集《夜の言葉》(1979年)など。

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世界大百科事典(旧版)内のル・グインの言及

【児童文学】より

…童話はイギリスから帰化したロフティングH.Loftingの〈ドリトル先生〉の数々の愉快な物語(《ドリトル先生物語》1920‐53)によってこの国に定着し,J.G.サーバーやデュ・ボアW.P.Du Boisを経て,ホワイトE.B.White《シャーロットのおくりもの》(1952)が生まれた。1960年代以降は本家イギリスのファンタジーを追う様々の試みがあるが,U.K.ル・グインが傑出し,ほかはアレゴリーの域を出ない。ほかに歴史小説のスピアE.G.Speareや冒険小説のオデルS.O’Dellがいるが,なんといっても近年のアメリカのリアリスティックな作品を特徴づけるのは,多民族国家アメリカの少数民族の経験を核にしたさまざまの作品である。…

※「ル・グイン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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