改訂新版 世界大百科事典 「ルッツァンテ」の意味・わかりやすい解説
ルッツァンテ
Ruzzante
生没年:1500ころ-42
イタリアの劇作家,俳優。本名はアンジェロ・ベオルコAngelo Beolco。パドバに私生児として生まれる。貴族コルナーロ家の保護を受け,コルナーロ家が所有する古代劇場を模した石造の劇場で,パドバの若者を集めては自作を上演した。自分はルッツァンテという名の百姓に扮するのを常としたが,この役が人気を呼び,フェラーラやベネチアまでも名を知られるようになった。初めは文学的な表現と当時の上流階級や教養ある人々が用いる言葉で牧歌劇調のものを書いていたが,しだいに方言のみを用いるようになった。庶民や農民たちの日常生活,特に戦争への恐怖,エゴイズム,愚かしさなどを,荒々しい方言で残酷かつリアリスティックに描いている。これらの人物像は後に吝嗇(りんしよく)な主人の家で狡猾にふるまう召使いたちに変身していき,それはコメディア・デラルテの登場人物の原型ともなったといわれる。彼の作品は19世紀まで完全に忘れられていたが,1950年代に〈再発見〉され,ヨーロッパ各国で上演されるようになっている。代表作は《ラ・モスケータ》(1528)である。
執筆者:溝口 廸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報