日本大百科全書(ニッポニカ) 「パストラル」の意味・わかりやすい解説
パストラル
ぱすとらる
pastoral 英語
pastorale イタリア語
pastorale フランス語
田園詩、牧歌。羊飼いの生活や田園の美、純朴な風俗を歌った詩。ギリシアの詩人テオクリトスのアイディルidyll, idyl、ローマの詩人ウェルギリウスのエクローグeclogueに発し、理想郷アルカディアを描く。ルネサンス期に復活、サナツァロJacopo Sannazaro(1456―1530)の『アルカディア』(1504)の影響が大きい。恋物語としてシドニーの『アーケイディア』(1590)、ゲーテの『ヘルマンとドロテーア』(1797)、故人を羊飼いに擬すミルトンの『リシダス』(1637)、シェリーの『アドネイス』(1821)がある。
[船戸英夫]
音楽では次の二つがある。(1)15世紀から18世紀前半には、古代の田園詩を模倣した詩や劇(タッソ『アミンタ』、グアリーニ『忠実な羊飼い』)、さらにはそれを歌詞や台詞(せりふ)として用いたマドリガルや舞台作品をさす。とくに牧歌劇とよばれるもの(リュリ『愛の神と酒神の宴』)は、オペラの前身として重要である。(2)南イタリアの羊飼いの音楽に由来する6/8あるいは12/8拍子の器楽曲。バッグパイプを思わせる持続低音のうえに、のどかな牧歌的雰囲気を感じさせる旋律が響く。J・S・バッハ『クリスマス・オラトリオ』第二部冒頭のシンフォニア、ヘンデル『メサイア』の器楽間奏曲シンフォニア・パストラーレなど、とくにクリスマスと結び付いた作品が多い。
[関根敏子]