私生児(読み)しせいじ

精選版 日本国語大辞典 「私生児」の意味・読み・例文・類語

しせい‐じ【私生児】

※日本の下層社会(1899)〈横山源之助〉一「野合して私生児産れ」

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デジタル大辞泉 「私生児」の意味・読み・例文・類語

しせいじ【私生児】[書名]

《原題、〈フランスLe Fils naturelディドロの戯曲。1757年発表。初演は1761年。新しい市民劇を目指した野心的な作品であったが、賛否両論を巻き起こした。

しせい‐じ【私生児】

私生子」に同じ。
[補説]作品名別項。→私生児

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改訂新版 世界大百科事典 「私生児」の意味・わかりやすい解説

私生児 (しせいじ)

適法の婚姻によって結ばれた夫婦以外の関係から生まれた子どもが私生児であり,婚外子非嫡出子とも呼ばれる。

キリスト教が一般化する以前のヨーロッパでは,結婚制度そのものに不確定の要素が多かったから,当然私生児の定義も流動的であった。結婚は家と家との縁組であり,家系を維持・発展させるための重要な手段であったから,古代スパルタのように,家のよき跡継ぎを得るため,妻以外の女性との間に子をもうけ,それを夫婦の子として育てることが許容されていた例もあり,古ゲルマンの場合のように,有力家系においては複数の妻をもつことによって家門の繁栄をはかったケースも見られた。しかし,ヨーロッパ社会が,しだいに一夫一婦制へと向かい,古代末期以来のキリスト教の浸透がいっそうこの傾向を強めたことは疑いない。しかし,中世においても,なお伝統的な行動様式は根強く残っており,とりわけ貴族層においては,家の後継者を確保し,家門の隆盛をはかるため婚姻外の交渉をもつことが広く許容され,そこに生まれた私生児も,家門に連なる者として高い地位を与えられている例が多い。こうした風習はアンシャン・レジームにまで及んでおり,ルイ14世がモンテスパン夫人との間にもうけた私生児を重用し,王位継承権まで与えようとしたことはよく知られている。これに反し,平民の間では,一夫一婦制に基づく私生児の排除という社会的規範は,かなり強力に機能していたと見られる。とりわけ,ローマ・カトリック教会が,13世紀に,結婚を秘跡の一つと定めて監視の眼を光らせ,また16世紀半ばのトリエント公会議以降は,カトリック宗教改革の一連の動きの中で全面的に規律の徹底をはかったことから,私生児は差別の対象として厳しく排除されることとなった。とくに農村では,村の司祭や共同体の監視の眼は厳しく,フランスでは私生児の率は1%に満たない地方が多く,イギリスでも18世紀半ばまでは5%を超す例はまれであった。しかし,この数字には,都市に出て出産するケースを考慮に入れねばならず,都市における私生児の率をそれだけ高くしていたといえよう。実際,都市においては,私生児の率が10%を超える例もしばしば見られた。私生児が生まれる最も多いケースは,ブルジョアや商人の家庭における主人と召使の関係であるが,こうして生まれた私生児は,ときに里子に出され,ときには棄児(捨子)とされて,闇に葬られることが多かった。生きながらえても社会的差別の対象となり,村外れの掘立小屋に住んだり,結婚も私生児同士でなければできないといった事例も目につく。フランスでは,18世紀の末葉より,農村地帯でも私生児の率の上昇が認められ,また港町や手工業都市では,労働者同士の同棲による私生児の誕生という,新しい現象が認められる。これは,アンシャン・レジーム末期に始まるキリスト教からの離脱現象の表れであり,こうした傾向は革命期を経て19世紀の都市社会において,急速に強まることとなる。
執筆者:

日本の社会においても伝統的に嫡出子と私生児の区別は厳格であり,私生児は嫡出子と異なるさまざまな名称でよばれていた。一般的に私生児はテテナシゴ(父無し子),つまり父のいない子と呼ばれることが多かったが,このほかに地方によってはホマチゴシンガイゴホリタゴヨクナシゴネコダツボッコヒロイッコミシケゴテンドコマツボリゴなどと呼ばれた。このうちホマチ,シンガイ,ホリタ,マツボリは開墾地へそくり(臍繰)など私的な財産を意味することばであるから,ホマチゴ,シンガイゴなども公には認められない私的な子を意味していた。ヒロイッコという表現もどこからか拾ってきた子を意味するから,嫡出の子とは厳格に区別した表現とみられる。

 私生児とはもともと法律用語であって,入籍していない夫婦の子どもを意味したが,この概念は必ずしも人々の考える私生児とは一致していなかった。たとえば,かつての飛驒白川郷の大家族において,長男以外の子どもは法律的にはすべて私生児であったが,この地方で私生児を意味するシンガイゴにはこれらの子どもは含まれなかった。シンガイゴが意味したのは旅の男との間にできた子どものみであった。したがって白川郷の大家族における次・三男以下の妻訪い婚は,法律的には婚姻とは認められなかったが,人々は社会的に正式の婚姻として承認していたのである。したがって法律用語としての私生児は日本人が伝統的に考えてきた私生児よりも,ずっと広い意味をもっていたのである。
執筆者:

婚姻には社会的承認を必要とすることはあらゆる民族に共通した条件であるが,社会構造の差異によって私生児の処遇には違いがあり,必ずしも一律ではない。サモア諸島では私生児は社会的になんら差別をうけない。子どもにはそれぞれその成長段階に応じて果たすべき社会的役割や仕事が積極的に与えられ,それを十分に果たすか否かが子どもに対する評価であって,嫡出,非嫡出の差はほとんど問題とされない。反対にサンはかなり厳しく性道徳が守られている社会で,結婚前の性関係はまれである。したがって私生児を生むことは大きな恥とされ,万一結婚前に妊娠すると,恥をさらさないために生まれた子を生埋めにすることもある。

 私有財産制が生まれてはじめて,その相続をめぐって子どもの嫡出性が問題にされるようになったとする見解もあるが,相続の対象となるような物的装備がきわめて小さいサンの例はこれに対する有力な反証になろう。また,子どもが母親の氏族の中で生まれ育ち,出自においても母方集団に所属し,相続も母系に従って行われるような場合(=母系制・妻方居住制社会)には,子どもは一様に嫡出子であって,嫡出・非嫡出の区別は問題にならないと主張するブリフォールトRobert Briffaultと,そのような社会においても父親の存在は実際の家族生活の上で,また子どもの完全な法的地位(=嫡出性)のためにも不可欠の条件であるとするB.マリノフスキーとの間で,かつて論争がたたかわされたが,前者の主張と一致しない母系制社会の事例は,マリノフスキーの挙げたトロブリアンド諸島をはじめとして,少なくない。
婚姻 →庶子 →嫡出でない子
執筆者:

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世界大百科事典(旧版)内の私生児の言及

【婚姻】より

… 第3に婚姻は,夫婦の間に生まれた子の法的地位を確保する。婚外関係により生まれた私生児は正式の市民権をもたず,さまざまな権利義務において差別をつけられる。この子に対する社会的承認は,多くの社会で婚姻に付与されている最も重要な機能であるが,なかにはギルバート諸島オノトアのように,未婚の母から生まれた子が社会的差別を受けても,父の認知により,正式の子として相続などすべての権利が与えられる場合もある。…

【嫡出でない子】より

…法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子のことで,非嫡出子ともいう。明治民法では私生子と呼ばれ,父親が認知すると,その父親と正妻との関係で庶子と称されたが,1942年の民法改正で〈私生子〉という呼び方は廃止され,〈嫡出でない子〉の語になった。婚姻外に出生したというだけで,嫡出でない子が保護の埒外に置かれるのは人権保障の点からも問題であるが,他方,嫡出でない子に嫡出子と同一の保護を与えれば,法律婚とそれに基づく嫡出家族の尊重される度合が相対的に低められることにもなる。…

※「私生児」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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