改訂新版 世界大百科事典 「ルバ族」の意味・わかりやすい解説
ルバ族 (ルバぞく)
Luba
中部アフリカ,コンゴ民主共和国の南部に住むバントゥー系の農耕民。ルバ語系の言語を話す部族には,ほかにルルア,ルンダ,ソンゲ,ヤケなどがあり,大きな言語集団を形成するため,ルバ(チルバ)語は,リンガラ語,スワヒリ語,コンゴ語とならび,コンゴ民主共和国の国語に採用されている。1960年のコンゴ(現,コンゴ民主共和国)独立以降の政治的混乱のなかでも,ルバ族は大きな政治勢力を形成した。ルバ族はカサイ・ルバ,シャバ・ルバ,そしてヘンバ・ルバの3グループに分かれる。熱帯降雨林の縁辺のサバンナ地帯に居住し,モロコシ,ミレットのほか,キャッサバを主作物として栽培し,ヤギ,鶏のほか,羊も飼うが,牛は少ない。村落は通路をはさんで2列に住居が並ぶ形態をとり,ふつうは一つのクラン(氏族)ないしリネージが単位となって形成される。15世紀にはルバ王国を形成して勢力を振るった。また,仮面,彫刻などのすぐれた工芸技術は,クバ族などとならび,コンゴ民主共和国だけでなくアフリカ全体を代表するものである。男女一対を彫りあげた床几(しようぎ)や枕も著名である。ルバの彫像,仮面は,コートジボアールのバウレ族のそれと共通点があり,静謐,気品の高さに特徴があり,祖先像の顔の表情には内面の沈着さがにじみ出ている。
アフリカ人の宗教や世界観について,最初に詳細な研究がなされたのが,このルバ族についてである。長年にわたりキリスト教の伝道に携わったタンペルPlacide Tempel神父は,その著書《バントゥー哲学》(1946)において,バントゥー族の存在概念に手がかりを得た。それは自然界における万物の創造要素であるヌトゥntu,すなわち生命力という観念を中心にしている。そして神とは偉大なるムントゥすなわち人間(死者をも含む)であり,偉大にして強力なる生命力であるという考えを引き出した。この生ける力の観念,〈力は存在であり,存在は力である〉とする実体論は,その後のアフリカの宗教をめぐる議論に一石を投じた。
執筆者:赤阪 賢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報