改訂新版 世界大百科事典 「バントゥー族」の意味・わかりやすい解説
バントゥー族 (バントゥーぞく)
Bantu
バントゥーというのは単独の部族をさすのではなく,バントゥー諸語に含まれる言語を話す人々の総称で,バントゥー語系諸族といってもよい。バントゥー諸語の分布は,アフリカ西部のカメルーンからアフリカ東部,さらにアフリカ南部までというように,アフリカ大陸の1/3という広い範囲に広がっている。その全体の人口は4500万,言語の数は600以上に分かれるという。バントゥーはおそらくナイジェリアとカメルーンの国境周辺のベヌエ川流域に起源地をもったが,紀元前に南東に移住し,コンゴ盆地の熱帯降雨林に入り込んだと考えられる。さらに一部は森林を通過し,コンゴ民主共和国南部のシャバ州に定着した。次いで,バントゥーは人口爆発を起こし,何度もの移住の波に乗って,アフリカ東部や南部に進出した。それには,ヤムイモ,タロイモ,バナナなどの東南アジア原産の作物を取り入れ,熱帯降雨林における農業の生産が急増したことが要因にあげられる。
一方,冶金の技術や牛の飼育を行うバントゥー系の半農半牧民,牧畜民が南下を開始し,ザンベジ川を越え,14~15世紀には南アフリカのナタール州まで到達した。彼らは王制の観念をもっていて,ズールー,スワジなどの中央集権的王国を形成した。バントゥーの伝統的な政治組織はクバ王国のような国家連合組織から,首長のない村落連合のレベルまでバラエティに富んでいる。しかし,いずれも比較的に歴史が短く,首長の権威は出自に基づき,支配者の家系に基礎を置くという類似の構造をとっている。バントゥーは文化的にも共通性が認められ,すぐれた冶金技術は豊かな仮面や彫刻の芸術を生んだ。コンゴ民主共和国のクバ族やルバ族,ガボンのファン族などの表現性に満ちた彫刻は有名である。しかし,それらは祖先像の場合,決して単なる芸術にとどまらず,共同体を守護する神秘力の持主である祖先の,生と死の意味を統合したものである。このような祖先崇拝や祖霊の信仰は,バントゥーの文化には一般的なものである。
執筆者:赤阪 賢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報