レティフドラブルトンヌ(英語表記)Restif de la Bretonne

改訂新版 世界大百科事典 「レティフドラブルトンヌ」の意味・わかりやすい解説

レティフ・ド・ラ・ブルトンヌ
Restif de la Bretonne
生没年:1734-1806

フランスの作家。本名,Nicolas Edme Retif。筆名のレティフはRétifとも綴る。ブルゴーニュ,オーセール市近傍サシ村の比較的裕福な農家に生まれた。故郷の村で牧歌的な少年時代を過ごしたのち,神学校へ入る準備のため司祭職にあった兄のもとにあずけられたが,早熟で多情な性格が災いして聖職に就くことをあきらめ,17歳の時,オーセールの名高い印刷業者F.フールニエの工場に職工見習として住み込む。しかしここでも雇い主の妻に恋慕するなど,多くの女性関係をもつ。1755年,徒弟の年期を終えてパリに出,王立印刷所の植字工をつとめながら同僚たちとパリの陋巷(ろうこう)を遊び歩く。そのかたわら当時の通俗小説を濫読し,作家への志を立てる。やがて《ファンシェットの足》(1769)が評判をとり,以後超人的な精力にものをいわせて,やつぎばやに300巻になんなんとする作品を世に問い,当代随一の人気作家となった。しかし大革命の勃発にともなう読者層の交代によって世間から忘れられ,晩年は警察の密偵をつとめて生活費をかせぐなど,不遇のうちに世を去った。

 ルソーを意識して書かれた《ムッシュー・ニコラ》(1794-97)をはじめとするレティフの小説作品は,いずれも自伝的要素が濃いもので,作者の漁色遍歴を縦糸に,当時の都会農村の生活絵巻が記録的に克明に織りなされており,大革命前夜のフランス社会相を知る上で貴重な素材を提供している。また写実主義先駆として,のちのバルザックゾラなどに影響を与えるとともに性心理の臨床資料として,クラフト・エービング,H.エリスらの性科学者たちに注目されたことも評価せねばならない。主要著書は上記のほかに,《ポルノグラフ》(1769),《堕落百姓》(1775),《父の生涯》(1778),《当世女》(1780-83),《堕落百姓女》(1784),《パリの夜》(1788-94)。
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世界大百科事典(旧版)内のレティフドラブルトンヌの言及

【ポルノグラフィー】より

…たしかに快楽主義が流行し,サドやカサノーバが性のユートピアを追い求めた。J.クレランドの《ファニー・ヒル》(1749),サドの《ジュスティーヌ》に対抗して書かれたレティフ・ド・ラ・ブルトンヌの《アンティ・ジュスティーヌ》(1798)などのポルノグラフィーの傑作がこの時代に書かれている。それにもかかわらず,ポルノグラフィーが社会的な問題となるのは19世紀になってからである。…

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