ロココは本来美術史・建築史上の様式概念であるが,音楽史でも18世紀初頭から1770年代にかけての,後期バロックから前古典派におけるフランスおよびドイツを中心とする一様式を指す。艶美様式(ギャラント・スタイル)やドイツの多感様式もこれに含まれる。ロココ様式の特徴としては,比較的簡潔な和声,歌謡性と断片動機の反復に富む旋律法,概して小規模な形式,狭い範囲における対比が強調される強弱法,豊かで変化に富む装飾法などが挙げられる。盛期バロックの重厚で構築的な,どちらかといえばくろうとや教養人向きの音楽に対し,貴族的できゃしゃな性格が強く,サロンなど社交的な場での演奏に適している。こうした音楽が生まれた背景には,フランスのルイ14世をはじめとする絶対主義王政が最盛期を迎えるに及んで文化の中心が教会からサロンに移行し,貴族社会での世俗音楽の需要が増したことや,それに伴う音楽の美学的基盤の変化などが考えられる。
ロココ的な特質は既にルイ15世時代初期のフランス・クラブサン音楽(クラブサン楽派)に認められる。初期の代表的作曲家には,F.クープランのほか,ドイツのカイザーReinhard Keiser(1674-1739),テレマン,マッテゾン,イタリアのD.スカルラッティらがいる。18世紀中葉では,イタリアのペルゴレーシ,サンマルティーニ,ガルッピBaldassare Galuppi(1706-85),ドイツのグラウン兄弟(兄Johann Gottlieb Graun(1702ころ-71),弟Carl Heinrich G.(1703ころ-59)),クワンツ,エマヌエル・バッハらが挙げられる。しかしJ.S.バッハの息子たちをはじめとする何人かのドイツの作曲家は,音楽上の疾風怒濤期ともいうべき多感様式の激しい感情表出に向かい,本来のロココや艶美様式の貴族的・装飾的性格からはしだいに離れていった。ロココ様式の特質は,クリスティアン・バッハやハイドン,若き日のモーツァルトらの作品にもうかがわれる。
執筆者:土田 英三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
18世紀前半から中ごろにかけての西洋音楽の様式の一傾向。ほぼ同時代の造形芸術、装飾様式を表すロココrococoを、音楽に適用した呼び方であり、それらと同様に、繊細な装飾性を重んじ、とくにフランスの宮廷を中心に発展した。バロックの劇的な対比性や壮大な様式への志向とは異なるため、ほとんど同時代ながら後期バロックとは区別されている。
ロココ様式の音楽は、1800年前後から後のフランソア・クープランのクラブサン音楽、室内合奏曲が典型的である。ここでは、厚い和音を響かせるのではなく、透明で薄い音響を理想とし、優美で叙情的、ときには感傷的な表情をもった旋律が好まれ、その旋律は多数の装飾音によって彩られる。大曲よりも小品が好まれ、それらはしばしば一連の、同じ調性の作品としてまとめられる。舞曲を基本としている点では組曲であるが、クープランの場合は、しだいにロンドー形式を多く用いるようになった。また彼の小品には空想的なタイトル、描写的な内容を示す付記をもつものが多い。この様式の特徴の多くは彼の声楽曲にも認められる。
この傾向は、クープラン以後短期間ベルサイユ楽派の音楽にみられたが、18世紀後半にはギャラント様式に移っていった。一方、ドイツではロココ様式を独自に継承し、より感情表出を重視、表情の変化、即興的演奏のスタイルなどと結び付けた多感様式が生まれた。この方向を代表するのは、大バッハの息子でベルリンとハンブルクで活躍したカール・フィリップ・エマヌエル・バッハである。
ロココ音楽は器楽、室内合奏曲、小編成の声楽曲を主体にした様式であり、大合奏、オペラとは結び付きが少なかった。
[美山良夫]
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